「お前は、本当に真面目だな。北峰に行ってもそのままか。……なぁ、なんで俺が中学のとき、標的をお前に切り替えたかわかるか?」

 今更、なぜ昔話を引っ張り出してくるのか。顔をしかめた私を、鼻で嗤って田中くんは続けた。

「放課後の教室で遊んでいた時に、お前が忘れ物したとかで入ってきたのを覚えているか? あの時、躊躇いもなく怒って連れ出したよなぁ。……あん時から気に食わなかったんだ」

 私のすぐ横にあるポールに、ガン! と鉄パイプを叩きつける。大きくへこんだポールを見て、サーっと血の気が引いていくのを感じた。

「自分がしていること全て正しいとか思ってただろ。影で俺達のこと見下してただろ!」
「そ、そんなこと――」
「俺を悪者に仕立てたのは、間違いなくお前だ! お前が学校を転校した後だって、袴田じゃなくて俺が切り捨てられたんだよ! あの頃から問題が起きたら袴田の仕業だと全員が疑った。袴田もお前も気に食わない。なのになんで俺が追い出されなきゃならなかったんだ!? 悪いのは全部お前だったのに!」

 田中くんは散々当たり散らして、近くの座席を蹴り飛ばす。勢いで背もたれにくっきりと足跡が残った。
 自分の非を認めることもせず、他人に責任を押し付けて気に食わないというだけで人を陥れようとする。呆れて言葉も出ない。
 正義を気取ってる? 他人がどう感じていようが勝手だが、袴田くんは私と田中くんの喧嘩に巻き込まれた被害者も同然なのに!

 
「……私が中学で標的にされていたのを、吉川さんに教えたのも田中くん?」
「置物の話はしてたからな。どんな仕打ちをしたのか教えろってさ」
「あれを高校でまたされたんだけど、その話も聞いてた?」
「まぁな。お前、逃げ出したって? 中学の時と変わんねぇな」

 逃げ出した。――その言葉を聞いて、私の中で何かが切れた音がした。

「――の?」
「あ?」
「逃げることの、どこが悪いの?」