「――え?」

 想像もしていなかった人物の名前が出てきて、思わず目を見開いた。私が動揺したのを見て、彼女は更に続ける。

「ずっと気になってたの。私、何度も助けられたことがあったんだけど、素っ気無くて相手にされなくて。同じクラスなんだから知ってるよね。教えてくれない?」

 ――私たち、友達でしょう?

「――っ!?」

 ぞっとした。
 脅しかけている彼女の言葉に、反射的に身構えて後ろへ下がる。しかし、咄嗟に掴まれた手をほどこうとするも、指の骨が折れるくらい強い力で引き留めようとしてくる。顔に似合わず、力強い。

「よ、しかわさん……?」
「あら、顔色が悪いけど……もしかして具合悪い? 保健室行きましょう。横になりながらでもお話はできるよね?」

 微笑んで心配してくれているはずなのに、私は彼女に恐怖を覚えた。振り払おうとしても、恐怖から身体がすくんで動けない。
 ふと視線を逸らすと、彼女の向こう側にいる袴田くんが目を見開いて固まっているのが見えた。一時停止ボタンでも押されたような、ピクリとも動かない彼があまりにも不自然だった。
 咄嗟に二人の共通点がないか思い出そうとするけど、全然思い浮かばない。
 岸谷くんの件では一切触れてなかったし、そもそも袴田くんが彼女を知っているのかも怪しい。二人並べば誰もが振り返る美男美女カップルに見えるけど、吉川さん越しに見える彼の表情は、なぜか怒りを抑え込んでいるようだった。

「――井浦!」

 突然名前を呼ばれたことに驚いて、身体の緊張が一気に解けた。
 校舎のある方から焦った様子の岸谷くんがこちらに駆け寄ってくる。彼の姿を見た吉川さんは名残惜しそうに手を離すと、小声で「また今度聞かせてね」と、いつもの優しい笑みを浮かべて戻っていった。
 彼女とすれ違った岸谷くんは不思議そうな顔をして言う。

「悪いな、取り込み中……どうした、顔色悪いぞ」