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 夢は浅いほどよく見るという。
 バスに揺られ、急に襲われた睡魔のせいで夢を見ているのだと自覚したのは、すぐのことだった。
 見慣れたコンビニの店内で、いくつもある商品棚に並べられた日用品や食品。それを眺め、手に取る利用客。レジらしきカウンターの中で忙しなく接客している従業員。――見慣れた光景だが、この店舗では一年で急激に売上が減ってしまった。北峰高校の近くにあるから学生の利用は多いし、放課後の文化祭準備でレジに長蛇の列を作ることだってあった。しかし、ある事件がきっかけで生徒だけでなく、近隣住民の利用も少なくなり、大きく売上を落している。近々閉店するのでは、と噂も流れていると聞いた。
 店内を見渡すと、私は目を疑った。
 お菓子コーナーで黒いパーカーの男子が、北峰の制服を着た女子生徒と楽しそうに話している。顔までは見えないけど、彼によく似ている。何の話をしているのかは聞き取れなかった。
 ここが本当に北峰の近くのコンビニなら、どうして彼がここにいるのだろう?
 私服とはいえ、岸谷くんや他の不良たちが店内に入ったらすぐ気付くかもしれないのに、どこか不用心に思えた。
 すると、パーカーの彼はレジに向かい、女子生徒は雑誌コーナーへと動く。そこでようやく、女子生徒が吉川明穂だと気付いた。……気付かなかった? いいや、ただでさえ彼女は学校で目立つ存在だった。私でさえ知っていたくらいなのだから、顔が見えなかったからといって、気付かないなんてありえない。
 当然の事ながら、吉川さんは私に気付くことなく、その日に発売されたファッション雑誌を手にとった。隣には一人の女性がラックの雑誌を見ている。
 この夢は一体何なんだろう。吉川さんとパーカーの彼が一緒にいるところなんて見たことがないし、あくまで憶測にすぎない。脳内変換で再現されているのは、私が無意識で都合のいい解釈をしようとしているのか。

『――くはは』

 後ろから聞き慣れた笑い声が聞こえた。振り返っても、そこには誰もいない。

「袴田くん……?」

 どこかで見ているの?
 慌てて店内を見渡すが、彼らしき姿はどこにも見当たらない。空耳や別の人の声なんかじゃない。あんな独特な笑い方を、聞き間違えるはずがない。

「……あれ?」

 いつもと景色が違うような気がして、足元を確認する。身体は確かに私のものなのに、視点が高く感じる。袴田くんが身体を乗っ取った時によく見る視界……まさか。

「これって、袴田くんが見ていた状況を再現しているんじゃ……?」