他人行儀の口ぶりで答えると、お母さんは悟ったように力なく笑った。
 嘘がつけなくてごめんなさい。彼女を許しているわけじゃないんです。でもあなたまで傷つけるつもりはありませんでした。――そんな言い訳が喉まで出てきたけど、飲み込むことしかできない。
 目線を逸らした先のベッドサイドテーブルには、花瓶に飾られたガーベラの花と、可愛らしいお手製のアルバムが置かれていた。「明穂、早く元気になってね」と書き添えられたそれを見ていると、お母さんは教えてくれた。

「ああ、これは中学の時のお友達が持ってきてくれたの。最近のものはないんだけど、良かったら見てあげて」
「……ありがとうございます」

 お母さんはそういって、私が持ってきた花と花瓶を持って病室を出て行ってしまった。
 アルバムを開くと、そこには友達と楽しそうに笑う吉川さんの姿が写っていた。休日に遊びに行った時のものだけでなく修学旅行といった学校行事まで、どの写真も満面の笑みを浮かべている。さぞ楽しい学校生活だっただろう。なるべく人との関わりを断っていた私にしてみれば、羨ましい限りだ。

「……ん?」

 じっくり眺めていると、ある一枚の写真に目が止まった。合唱コンクールで金賞を貰った時のクラス写真だ。彼女が着ている制服や生徒より喜んでいる教師らしき男性をどこかで見たような気がする。
 首を傾げていると、小さな花瓶にすっぽり収まった花を持ってお母さんが戻ってきた。

「ごめんね、ひとりにさせちゃって。……あら、どうしたの?」
「……あの、明穂さんってどこの中学校出身ですか?」

 ――吉川さんに会いに行ってよかったと、素直に思った。
 彼女が通っていた中学校は、あろうことか私が編入した中学校だったのだ。だから制服や教師に見覚えがあった。なんで今まで気づかなかったんだろうと驚く半面、当時の私はそれほどまでに周りを見る余裕がなかったのだと、不本意ながらも納得してしまった。
 私が知らなかっただけで、彼女が一方的に私のことを知っていたとすれば、嫌がらせが原因で編入してきたと耳に入っていてもおかしくはない。
 あとはどうやって事細かく状況を知ったのか、だ。
 それに偶然とはいえ、あの田中くんが吉川さんの病室近くにいた事が気になる。これ以上調べるには、岸谷くんの協力が必要だろう。
 病院からの帰り道、岸谷くんにメッセージを送ってみたものの、一向に返事が返ってこない。文化祭の作業が忙しいのかもしれないと割り切って、明日の朝になるのを待った。