作戦会議後、岸谷くんは文化祭の準備のために作業に戻った。
 袴田くんのことが心配なのはわかるけど、一応責任者である彼が、文化祭の仕事を放ったらかしにするわけにはいかない。
 何かわかったら連絡すると話して別れると、私は荷物を持って学校を出た。クラスでは展示のみで、当日飾るまで手出しができない。だから放課後まで教室に残って作業をする必要がないのだ。
 とはいえ、袴田くんのタイムリミットが迫っている以上、このまま真っ直ぐ家に帰るわけにはいかない。花屋に寄り道をして小さな花束を買うと、バスに乗り込んである場所に向かう。

 バスに揺られる中、私は近江先輩と山中くんと話した中学時代のことを思い出していた。
 私が袴田くんと同じ中学に通い、悲惨で醜い光景を目にしたあの日――机には罵倒する落書きとペットボトルに首の折れた菊の花が一輪飾られていた。悪戯にしては悪質で、周りのクラスメイトの知らぬふりをする冷ややかな雰囲気にショックを受けたあの光景は、決して良いものではない。むしろこればかりは忘れてしまいたいとさえ思う。
 しかし、それはたった四年の時間を経て、同じ光景を目の当たりにすることになる。
 夢に出てくることも、記憶にこびり付いて離れないことも、仕方がないと思っていた。でもそれはあくまで過去の記憶で、現物を見ているしているわけじゃない。だから、あの再現を間近で見たとき、息苦しくなったのを覚えている。
 当時のことを知っていて、あの中学から入学してきたのは袴田くんだけだ。それにも関わらず、吉川さんはあの光景を再現した。多少異なる部分はあっても、私の記憶にあるものと瓜二つだった。偶然にしては出来すぎていたから同じ人が仕掛けたのかと考えたけど、主犯格だった田中くんが敵対視していた袴田くんと同じ北峰に入学とは考えにくいし、聞いたこともない。
 ならば、吉川さんが誰かから聞き出したことになる。情報源がどこかを突き止めたくても、学校での彼女は今、持病の関係で不登校扱い。入院中であることも校内に広まっているが、実際はコンビニ立てこもり事件で負傷した傷の所為で一時危なくて、今も昏睡状態が続いている。これを校内にいる生徒は皆、記憶が抜けていた。私がいくら聞きまわっても、彼女の話をしてくれる人はいなかった。
 そこでお見舞いも兼ねて、吉川さんが眠っている病院に行くことにした。
 入院している病院は以前から知っていたけれど、彼女の企みによって死んでいたかもしれないと思うと、とても見舞いに行く気分にはなれなかった。