私が煽るように聞いたのが悪かったのか、岸谷くんは面倒臭そうに小さく溜息を吐いた。

「お前はいつからしつこく聞いてくるようになった? 今まで踏み込んでこなかったくせに」
「確かに喧嘩絡みは避けてきた。でも今はそんなことを言っていられない。袴田くんのタイムリミットが近いなら、もうなりふり構ってらんないよ」
「そこまでしてどうすんだよ。袴田はもう死んでるんだ。……まさか本気で好きになったとか」
「そんなわけないって。私はただ、成仏する前にちゃんと会って、文句言ってやらなきゃ気が済まないだけ!」

 この際、理由は何でもいいと思った。どれだけ助けたいと思っていても、間に合わなければ意味がない。消えることが成仏することに繋がっても、そうじゃなかったとしても、私は袴田くんに会いたい。会って話したい。

「こっわ……まぁ、確かにそうだけどよ」
「それに彼の一番恐ろしいところを見てきたのは岸谷くんの方が知っているでしょ? だからあの時、本気で怒ってた袴田くんに気付いたんだよね?」
「それも近江先輩から聞いたのか。……ったくあの人は、自由人とはいえ口が軽すぎる」

 岸谷くんは私よりもずっと、袴田くんと一緒にいる時間が長かった。最初は敵で、喧嘩をしてお互いを認めた、青春臭い頃を思い出したのか、彼は小さく溜息をついた。

「……思い出したんだ。入学当初に荒れていた頃のアイツを」

 渋々口を開いた岸谷くんは、フェンスの向こう側を見た。

「誰一人寄せ付けなかったあの威圧感が、身体から染みついて今も離れない。その気迫に圧されて降参する不良は沢山いた。アイツは本当に、最強と呼ぶにふさわしい奴だったんだ。記憶に焼き付いて離れないくらい、まっすぐな目が恐ろしくて、頼もしかった」
「岸谷くん……」
「……ったく、なんで今頃思い出させるんだよ。明日になったら俺や他の奴らが忘れるかもしれないって時に」
「ご、ごめん」
「まぁいい。それよりも井浦、明日になって俺がとぼけた顔してたら思い切りぶん殴れ。――頼むぞ、戦友を奪われるなんて、死んでも御免だ」

 悔しそうに唇を噛む彼に、私は何も言えなかった。