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「それで、お前はどこまでわかったんだ?」
「……過去の話を聞いただけじゃ、わからないよ」

 文化祭の準備中にも関わらず、私と岸谷くんは屋上で作戦会議を始めた。
 責任者の彼がここにいるのはどうかと思うが、事前に彼は「ちょっと野暮用を済ませてくるから先に進めてくれ」と他の委員に仕事内容を委員に渡していた。
 屋上なのは単純に教室がどこも空いていなかったからで、袴田くんがそこで聞いていたとしても構わなかった。いや、むしろ出てきてほしいとさえ思う。くはは、といつもみたいに気味悪く笑って、何事もなかったように現れてほしかった。しかし、私の思いは虚しく、屋上には風の吹く音だけが寂しそうに響いた。
 岸谷くんは、袴田くんの中学での話について、荒れていた程度の事しか聞かされていなかったらしい。聞いていて楽しい話ではないから、必要なかったのだろう。他にも、私が彼と同じ中学に在籍していたこと、当時ニュースで話題になった騒動を止めたのが彼であったことを話すと、納得した様子で頷いていた。

「まさかお前が袴田と同じ中学だったとは……二年の時から隣の席だったのに、気付かなかったのか?」
「……気付かないわけないよ。中学から金髪は変わらなかったし。でもちゃんと話したことなかったから、私のこと知らないと思ってて……」
「それもそうか。……北峰に入った当初のアイツは、殴ることしか考えてない奴だったからな」
「そういえば岸谷くん、元カノが原因で袴田くんに殴りこんだって近江先輩が言ってたけど……」
「詳しい話は聞くなよ。俺的にはザ・青春だったんだから。……って、だからってどうでもいいって顔すんな。傷つくぞ」
「とにかく、吉川さんとの繋がりが肉まん事件だったことは分かったよ。近江先輩の話が本当なら、袴田くんの不器用さが仇になった思う。……確か岸谷くんもいたんだよね?」
「肉まんが潰されたところはな。アイツの爆弾発言は人伝で聞いたんだよ。この言い方はしたくないが……お互い自業自得だよな。あの時の袴田はミスコン優勝者よりも肉まんだったし、吉川は狙った奴にはしつこくて裏で有名だったから」

 遠い目をしている岸谷くんを見る限り、袴田くんはよほど肉まんが好きだったらしい。これ以上追及するものでもないけど。