神様は、気に入った人間を自分の元へ連れてきてしまうことがあるらしい。
 優れた才能を持つ若きアーティストがこの世から去った直後、残されたファンが悔しそうにそんなことを呟いていた。もし本当に神様が品定めをしているのなら、この世界で生きている私達は、ある程度自由を与えられた金魚にでも見えているのかもしれない。

 ならば、神様は袴田玲仁をお気に召したのだろうか。

 不慮の事故に遭って成仏できず、人の生死に関わることができる異質な存在になった彼を、神様は喉から手が出るほど欲しかったのか。それとも彼が気に入らなかったからこそ、多くの人の記憶から彼の存在を消そうと残酷な仕打ちをしているのか。

 記憶の中から消えてしまえば、今度こそ袴田くんの存在自体がなかったことになる。

 その止め方は、誰も知らない。