「せ、先週の帰りに会ったのが最後、だけど……」

 袴田くんの身体が透けているのを見たこと、あと一週間の時間しかないと告げられたことを話すと、岸谷くんは頭を掻きむしった。

「身体が透けてるとはいえ、成仏するとは限らねぇな。そもそも、井浦に吉川のことを伝えている時点でかなりヤバいんだと思うが……」
「……命日が近いからとか?」
「四十九日法要のときに平気で屋上で昼寝していた奴にそれが通じるとは思わねぇが……ともかく、文化祭の初日までに何とかしねぇと。まずは袴田を探すしか……」
「今日も探してみたけど、見つからないの」

 今朝も教室の他に屋上にも行ってみたけど、姿は見当たらなかった。学校の敷地外に出てまで散歩するようなタイプではないのは、私もよく知っている。
 彼は死んでからというもの、幽霊なんて言葉ではまとめられない、異質な存在として一年近くこの世を彷徨っていた。身体に取り憑くだけでなく、実体化という普通ではありえないことも、彼はさも当然のようにやってのけてきた。
 平然としていたから気付かなかった。――いや、気付かせなかった。

「これって、袴田くんの存在が完全に消える前兆じゃないよね……?」

 駅のホームで会った時に身体が透けていたのは、異質な身体の維持が保てなくなっていたのではないのか。いや、最初から身体の維持が不安定だった可能性だって捨てきれない。
 身体の消失――つまり、この世から成仏以外の方法で消えることがあるとしたら、それは誰かの記憶から消え去ること。明日になったら、岸谷くんもクラスメイトも、私でさえも完全に彼のことを忘れてしまうかもしれない。
 一年間も不安定な身体を維持してきた代償?
 それとも人の道を外れようとした罪?
 もし袴田くんが提示した期限以内に心残りを見つけ、晴らすことができたとして、彼の消失は成仏に変わるだろうか。
 そんな保障はどこにもない。誰も教えてくれない。むしろ無いと考えるべきだ。
 状況は最悪だった。