あれから吉川さんから声をかけられることが増えたものの、クラスメイトや先生からは避けられたままだった。私は元から人付き合いが悪いこともあって、独りになることは苦ではなかったが、やはり声をかけてもらえるのは嬉しい。
 それは袴田くんに対しても同じだった。
 教室に行くと、誰よりも早く『おはよう』と声をかけてくれたのは、他でもない彼だ。

 ――ただ、困ったことが増えてきたのも事実。

「オイ! 井浦ってのはお前か!」

 放課後になると、校門前で他校の男子が現れるようになった。
 聞くところによれば、岸谷くんの一件で校内に広まった「袴田の再来」の噂がなぜか他校にまで流れてしまい、かつて袴田くんに挑んで負けた不良たちが私に再戦を挑んできたのだ。

「だから、私関係ないんで……」
「ああ? 関係ないわけないだろ! あんな変な笑い方をする奴、袴田しかいねぇだろーが!」

 それは本人は乗っ取ってるから。……とは、ここでは言えない。
 苦笑いで誤魔化して逃げることもあるが、今回のように人数が多く、囲まれている場合はそういうわけにもいかない。

『くははっ! ちょー人気者じゃん井浦ぁ!』

 当の本人はというと、腹を抱えて笑い転げていた。
 ああ、この場にいる人たちに、彼のこの姿を見てもらいたい。きっと腹が立つに違いない。

『そんなに睨むなって。どうにかしてやろうか?』
「……最低」

 自分で蒔いた種でしょうが。と呟いた後、我に返る。目の前には満面の笑みを浮かべた不良たちがこちらを見て、どこか嬉しそうに指の関節を鳴らしていた。

「ほう、そんなに腕っぷしには自信があるのか」
「えっと……てへ?」
「上等じゃあああ!」

 こんな時代遅れの誤魔化し方じゃダメに決まってるっての!
 一気に突っ込んでくる彼らは、まるで突進してくる凶暴なイノシシだ。何を言っても聞き入れてもらえない。思わず目を閉じると、耳元で袴田くんの溜息が聞こえた。

『ったく、しょーがねぇな』

 そのまま私の身体を乗っ取った袴田くんは一瞬にしてイノシシ……ではなく、不良たちを一網打尽にしてしまった。何をしたのかはわからないけど、気絶させたわけではないようで、地面に倒れている不良たちは皆、顔を歪ませて唸っていた。

「お前らがここに何度来ても、袴田は出てこねぇよ。自分の学校の草むしりでもしてな」

 私、そこまで口は悪くないよ。

「チッ……うるせぇな。お前に合わせてられるかっての」

 人の身体乗っ取っておいてそれはないでしょ!