山中くんの話を聞けば聞くほど、見えない何かに押しつぶされていく。
 彼が無意味な喧嘩をしていたのも、疑われるのがわかっていていじめの証拠を警察に持って行ったのも、多くの人から反感を買われてしまったのも、全部私が原因だった。
 
 私が関わらなければ、彼は今もここにいたかもしれない。
 喧嘩なんてしなくても、髪色が金髪でも、仲間思いで心配性な彼なら、いろんな人から愛されていたかもしれない。
 それこそ、吉川さんの猛烈なアップローチにも上手く対応できたかもしれない。
 あの事故で死ななかったかもしれない。
 復讐なんて、ふざけたことを考えなかったかもしれない。
 考えれば考えるほど、自分の心臓が沈んでいくような気分だった。
 私が彼を助ける? なんてふざけた綺麗事だろう!
 すると突然、ちゃぶ台越しから近江先輩が腕を伸ばして私の肩を掴んだ。

「責めるな。戻ってこい」
「近江、先輩……」
「もっと他に方法があったはずなのに、強行手段に出た玲仁も、玲仁を悪者にする環境を作った周りの奴らも皆悪い。だから自分だけを責めるな。今お前がここにいるのは、玲仁が体張って守った結果だ。だからお前が、守ってもらった自分を捨てるようなことを考えてたら、アイツが傷ついた意味がねぇ」
「……自分を、捨てる?」
「今、自分が関わったから玲仁が不運な目に遭ったとか思ってるだろ。お前が関わらなかったら、例え死ななかったとしても、きっと今も人を殴ってた。殴って安心感を求めるだけの化け物になってたんだよ! それをお前が止めたんだ。お前が味方になってくれたから、アイツは弱いことを恥じなかったんだよ。……頼むからさぁ」

 ――ずっとアイツの味方でいてやってよ。

 近江先輩の声が震えていた。肩を掴む手に力が籠っている。隣で黙っていた山中くんも、唇を噛みしめていた。
 悔しくないわけがない。
 助けたいと思った人が、助けてもらった恩がある人が呆気なく去ってしまうこの世界で、死を悔やまないわけがない。それこそ二人にとって袴田くんは、誰よりも救われてほしいと願った人だったのだから。
 私は何も言えなくて視線を落とすと、台の下で震えていた手を見る。手のひらに爪が食い込んで出血していた。複数の赤い弧を描いたそれは、感覚がわからないほど痺れていた。