父は封筒を叩きつけ、今にも殴りかかりそうな剣幕で怒鳴りつけた。それでも教頭先生はフローリングに額をこすりつけて懇願する。次期校長と噂されていた教頭先生にとって、私は邪魔者でしかなかったのだ。
聞いていられなかった私は、止められていたにも関わらずリビングに入っていき、教頭先生に言った。
「……転校します。だから、もう――」
汚いからやめてください。
私の記憶はそこで途切れている。後から聞いた話だと、その場に崩れるようにして倒れ、救急車を呼ぶほどの騒ぎになったらしい。
体調が安定する間、父の実家がある隣の県の中学への転入手続きを済ませてもらい、引っ越しもして新しい生活を始めた。あの光景を毎晩思い出したこともあったけど、一つの区切りとして考えて何度も飲み込んできた。
新しい生活にも慣れ、無事進級した頃。私が転校せざる得なくなった中学でのいじめ騒動がニュース番組に取り上げられていた。一見、あの騒動は学校側が主犯格と担任に鉄槌を下したとして、すでに終結したことになっているが、その後もクラス内でいじめは続いていたらしく、ある生徒からの通報で警察が介入した。これごとの大事になるのだから、負傷した生徒が出たのだろう。誰が被害に遭ったのかはわからない。
今度こそ主犯格の生徒は退学処分になったが、結局は三ヶ月間の謹慎という、生温い処分がもたらした最悪の結果だ。
さらに、このことが公になる直前に「君がいることでイメージが損なわれるから出て行ってくれ」と教頭先生が被害者の生徒を説得したことが公になると、中学校には取材に訪れた記者たちに囲まれる映像も流れていた。「こんなことになるなら、最初から改心なんて期待しなければよかった!」と、ぐしゃぐしゃの顔で弁明している教頭先生が画面いっぱいに埋め尽くされると、私はテレビを消した。
「後悔先に立たず」と綺麗な言葉で締めくくるには、見苦しい会見だったのを今でも覚えている。
人の意地汚さを思い知った気がして、いつかこうなる自分がいるんじゃないかと思うと怖かった。
だからなるべく人と関わらないように避けてきた。自分が嫌な思いをしないように、自己防衛のつもりだった。
決して忘れていた記憶じゃない。忘れたくても忘れられなくて、話せなかった、黒い記憶だ。
聞いていられなかった私は、止められていたにも関わらずリビングに入っていき、教頭先生に言った。
「……転校します。だから、もう――」
汚いからやめてください。
私の記憶はそこで途切れている。後から聞いた話だと、その場に崩れるようにして倒れ、救急車を呼ぶほどの騒ぎになったらしい。
体調が安定する間、父の実家がある隣の県の中学への転入手続きを済ませてもらい、引っ越しもして新しい生活を始めた。あの光景を毎晩思い出したこともあったけど、一つの区切りとして考えて何度も飲み込んできた。
新しい生活にも慣れ、無事進級した頃。私が転校せざる得なくなった中学でのいじめ騒動がニュース番組に取り上げられていた。一見、あの騒動は学校側が主犯格と担任に鉄槌を下したとして、すでに終結したことになっているが、その後もクラス内でいじめは続いていたらしく、ある生徒からの通報で警察が介入した。これごとの大事になるのだから、負傷した生徒が出たのだろう。誰が被害に遭ったのかはわからない。
今度こそ主犯格の生徒は退学処分になったが、結局は三ヶ月間の謹慎という、生温い処分がもたらした最悪の結果だ。
さらに、このことが公になる直前に「君がいることでイメージが損なわれるから出て行ってくれ」と教頭先生が被害者の生徒を説得したことが公になると、中学校には取材に訪れた記者たちに囲まれる映像も流れていた。「こんなことになるなら、最初から改心なんて期待しなければよかった!」と、ぐしゃぐしゃの顔で弁明している教頭先生が画面いっぱいに埋め尽くされると、私はテレビを消した。
「後悔先に立たず」と綺麗な言葉で締めくくるには、見苦しい会見だったのを今でも覚えている。
人の意地汚さを思い知った気がして、いつかこうなる自分がいるんじゃないかと思うと怖かった。
だからなるべく人と関わらないように避けてきた。自分が嫌な思いをしないように、自己防衛のつもりだった。
決して忘れていた記憶じゃない。忘れたくても忘れられなくて、話せなかった、黒い記憶だ。