山中くんを高校生から袴田くんが救った、翌日のことだった。
 登校すると、私の机を囲うようにしてニタニタと笑っている彼らがいた。そこには様々な罵倒が机に書かれているだけでなく、ペットボトルに強引に挿しこまれた一輪の菊の花が置かれている。

「おー来た来た。置物。お前の特等席を作っておいてやったぞ」

 強引に机の前に連れていかれると、見たくもない真っ黒な机の文字が嫌でも入ってきた。周りはゲラゲラと笑っている。
 屈辱的だった。限界だった。
 ――ああ、でも最後くらい、何を言ったっていいよね。
 私は落書きされた机を彼らに向けて蹴り飛ばすと、言いたいことを感情まかせに撒き散らす。誰もが顔を青くして、恐れるような強張った表情を浮かべる。滑稽だった。
 名残惜しかったけど、私は足早に学校を出る。このまま家に帰ったところで両親になんて説明しよう。
 校門を出たところで運悪く雨が降ってきて、髪も制服も濡れたまま、人気の少ない公園で時間を潰していた。時間なんて気にしなかった。何も考えたくなくて、その場にずっと居たら、一向に帰って来ないことを心配した母から「学校から早退したって連絡あったけど、今どこにいるの!?」と電話がかかってきた。私は謝ることしかできなくて、公園にいることを伝えると気が抜けたのか、気を失った。
 病院に連れていかれた結果、濡れたままの状態で外を出歩いたうえ、日頃のストレスが原因で風邪を引き起こしたらしい。
 両親には学校であったことを話した。父は怒りで震え、母は代わりに泣いてくれた。私は何も感じなくて、ただ火照って怠い身体がどうしようもなく重くて眠ってしまいたかった。
 学校を休んで三日目の夜、家に教頭先生と担任の先生がやってきた。両親に止められて同席はできなかったが、気になって廊下で聞き耳を立てていた。
 内容は学校でいじめがあったこと、主犯格の生徒を三ヶ月の謹慎処分にしたこと。そして、隣にいる担任はわかっていながらも見て見ぬふりをしていたことを説明すると、今日来た一番の理由である私の今後についてある提案をした。

「いやぁ、大変申し訳ございませんが、娘さんがこのまま学校に来られるとは思いません。宜しければ転校、といった形をとっていただけませんでしょうか」

 教頭先生はそう言って、近隣の中学校の資料とともに札束が入った封筒をテーブルの上に並べた。