――少し、昔話をしよう
 中学に入学した頃の私は、クラスメイトともすぐ仲良くなれたし、部活動や委員会にも前向きだった。我ながら楽しい学校生活を送っていたと思う。
 しばらくして、クラス内でも必然的にできたあるグループが、先生に隠れて目立つのが苦手な女子生徒に無茶なことを押し付けるようになった。どうして彼女が狙われたのかは分からない。私はたまたま帰りがけに忘れ物に気づいて、取りに戻った教室で、蟻もしない罵詈雑言を浴びさせられている場に居合わせてしまったのだ。
 見るに堪えないほど傷ついたその姿に、私は怒りを抑えながらも生徒を教室から連れ出した。保健室なら来ないと思って休ませてもらい、何があったのか尋ねると、しゃくりをあげながら教えてくれた。

「邪魔だっていわれたの。私のことを放っておいていいから。じゃないとアイツらは、今度は井浦さんを標的にする、から……!」

 泣きじゃくって震えるその身体を、落ち着くまで擦ってあげることしかできなかった。
 その翌日、彼女は学校にこなかった。一週間も欠席が続けば、あの件がきっかけで不登校になったのは一目瞭然だった。
 クラスメイトは皆、彼女のことを忘れると同時に新しい暇つぶしを探し始める。
 そして彼らが次に狙いをつけたのが、私だった。
 ある日、私が「テストでカンニングしていた」、「人のものを盗んだ」などといったデマが流れた。
先生は私の話を聞く耳も持たず、クラスメイトとともに、何かあれば私に当たるようになった。水道のシンクに半分浸かった教科書、泥まみれになった運動着。まだ暴力が無かったことだけが唯一の救いだったかもしれない。
 何度嫌がらせを受けようと、懲りずに登校したのは、こんなことで屈してはいけないと思ったからだ。いくら「置物」だと言われようと、私にはそれだけが支えだった。

「――わ、私が通報したときには、すでに喧嘩は始まっていたんです!」

 アニメ好きの男子生徒改め、山中くんが絡まれていたときに動画を回していたのは、虚偽通報ではないことを証明するためであって、袴田くんの無実を証明することになるとは思っていなかった。
 彼が警察の厄介になっているのは噂で知っていたけど、まさかこんなところで疑われるとは思わなくて、気づいたら声を上げていた。私は学校が一緒でもクラスが別で、少し離れた教室だったから、彼らは私のことなど知らなかっただろう。
 だからこんなにも真っ直ぐな人が不良でいることに驚く半面、頼もしさも感じていた。夕日に照らされた金髪が眩しくて、本当にヒーローみたいな人だと思った。