秋から冬に切り替わったある日の放課後、袴田は近江と、例に倣って近江にスカウトされた岸谷隼人と共にコンビニに立ち寄った。珍しく袴田が目を輝かせていたのは、レジ横に置かれた肉まんだった。冬の季節にしか発売されない肉まんは特別感があると、いつになく上機嫌だった。
 それぞれで肉まんを買ってコンビニを出ると、すぐ近くで甲高い悲鳴が聞こえた。
 見れば、コンビニの脇道で南雲の不良が北峰の女子生徒の腕を掴み「ぶつかってきたのはそっちだろ! 慰謝料寄越せ!」などと脅している。

「アイツって確か、めっちゃ悪評で有名な南雲の三年生じゃ……」
「そうだなー」
「そうだなって……あのまま放っておいていいんですか?」

 岸谷が慌てている中で、近江は楽しそうに眺めており、袴田に限っては買ったばかりの肉まんにしか目に入っていない。

「袴田ぁ! そんなに肉まんが大事か!」
「だって冷めるじゃん」
「買ったばかりだし、アイツ撃退した後でもあったかホカホカだっつーの!」
「隼人、大丈夫だって。ほら」

 そう言って近江が指さすと、警察官がこちらに向かって走って来るのが見えた。近くに顔面蒼白で見ている北峰の男子生徒がいる。きっと彼がパトロール中の警察官を呼び止めたのだろう。町の安全を守る警察がいるのに、自分たちが出しゃばったら、不良の喧嘩に女子生徒が巻き込まれたと疑いを掛けられる。こういう時は黙ってこの場を離れるのが一番だ。
 南雲の生徒も警察官が近付いてきているのに気づいたようで、慌てて掴んでいた女子生徒を突き飛ばして逃げ出した。

「後は警察が捕まえたら良いだけの話。俺達が出る幕じゃなかっただろ」
「そうだけど、先輩……!?」

 歯切れの悪い岸谷を宥める近江を横目に、袴田はせっせと肉まんを袋から食べやすいように取り出す。目に見えるほど熱々の白い湯気と、ふんわりとした弾力の皮……これをどれほど待ち望んでいたことか!
 下の紙を丁寧に剥がして、熱々の肉まんにかぶりついた――はずだった。