しかしその翌日、ある騒ぎが起こった。
袴田たちと警察官が話しているのを目撃した生徒が、クラスのグループメールにその時の様子を流していたのだ。
【置物と不良が共犯だった! マジウケるんだけど!】
そのコメントともに貼られた画像には、警察官と袴田たちが話をしている場面で、批判するコメントとともにどんどん広まって、SNSに拡散されていった。
事実を知っている袴田は冷静だったが、一緒に写っている女子生徒のことが気になって、朝のホームルームの前に彼女がいるクラスに向かった。
騒がしい声が聞こえて、ドアから覗くと、目に入ってきた光景に言葉を失った。
マジックで机に書かれた罵倒の言葉の数々、空のペットボトルに折れ曲がって挿しこまれた菊の花。
その席に座るはずの女子生徒は鞄を持ったまま、机を前に立ち尽くしていた。その姿を見て笑っている生徒もいるこの教室がなんとも悲惨で、醜い感情で溢れていた。
「袴田と組んでいれば、俺達が止めるとでも思った? 残念だったな!」
「たいして殴るしか脳がない奴と一緒にいても、クラスが違う時点で無駄だっての」
「つか、元はといえば田中がカンニング疑われるからだろー」
「わりぃわりぃ。でもセンセーも置物だって信じてるし、大丈夫っしょ」
田中と呼ばれた生徒が楽しそうに笑うと、女子がゆっくりと顔を向ける。なんとも無機質で、この世のものとは思えないといった目で辺りを見渡した。
「なんだよ、元はといえば、お前が袴田と組もうとするからだろ? 俺たちに逆らおうとするからこうなったんだよ。やられて当然じゃねぇか」
「…………」
「……なんだ、その目は」
(――不味い)
袴田は嫌な予感がした。田中がこっそりと拳を固めているが見える。このまま放っておけば、田中は彼女に暴力を振るうかもしれない。いや、それよりももっと悪いのは、田中が別の誰かを怪我を負わせるか、学校の物を壊して、すべてを彼女のせいにすることだ。そうなったら、今まで以上に風当たりは厳しいものになる。
(飛び出して止めるか? いや、そんなことしたらアイツが教室にいられなくなる)
袴田は考えるだけで、動こうとはしなかった。――いや、動けなかった。何度も喧嘩の最中に感じる殺気を潜り抜けてきたはずなのに、一歩踏み入れただけで襲ってくる、卑劣で欲にまみれた空間が気持ち悪くて仕方がない。
(なんでだよ、なんで――!?)
周りの目なんて気にしてない。自分がどうあるべきかと考えて拳を振るってきたはずなのに、この場で飛び込めば、自分が完全に周りから突き放されることを悟った。振り払ったはずの不安がまた押し寄せてくる。
(……もしかして、怖いのか?)
気にしない、考えない――そう自分に言い聞かせても、袴田は動けなかった。
すると、突然ガシャン! と大きな音が廊下まで響いた。何かが倒れたようで音が聞こえた教室の中を見れば、落書きだらけの机が横たわっていた。菊の花がへし折られる形で入ったペットボトルgは、床に転がって、蹴り上げた脚を戻した彼女の足元に辿り着く。
「こんなことして、楽しかった?」
袴田たちと警察官が話しているのを目撃した生徒が、クラスのグループメールにその時の様子を流していたのだ。
【置物と不良が共犯だった! マジウケるんだけど!】
そのコメントともに貼られた画像には、警察官と袴田たちが話をしている場面で、批判するコメントとともにどんどん広まって、SNSに拡散されていった。
事実を知っている袴田は冷静だったが、一緒に写っている女子生徒のことが気になって、朝のホームルームの前に彼女がいるクラスに向かった。
騒がしい声が聞こえて、ドアから覗くと、目に入ってきた光景に言葉を失った。
マジックで机に書かれた罵倒の言葉の数々、空のペットボトルに折れ曲がって挿しこまれた菊の花。
その席に座るはずの女子生徒は鞄を持ったまま、机を前に立ち尽くしていた。その姿を見て笑っている生徒もいるこの教室がなんとも悲惨で、醜い感情で溢れていた。
「袴田と組んでいれば、俺達が止めるとでも思った? 残念だったな!」
「たいして殴るしか脳がない奴と一緒にいても、クラスが違う時点で無駄だっての」
「つか、元はといえば田中がカンニング疑われるからだろー」
「わりぃわりぃ。でもセンセーも置物だって信じてるし、大丈夫っしょ」
田中と呼ばれた生徒が楽しそうに笑うと、女子がゆっくりと顔を向ける。なんとも無機質で、この世のものとは思えないといった目で辺りを見渡した。
「なんだよ、元はといえば、お前が袴田と組もうとするからだろ? 俺たちに逆らおうとするからこうなったんだよ。やられて当然じゃねぇか」
「…………」
「……なんだ、その目は」
(――不味い)
袴田は嫌な予感がした。田中がこっそりと拳を固めているが見える。このまま放っておけば、田中は彼女に暴力を振るうかもしれない。いや、それよりももっと悪いのは、田中が別の誰かを怪我を負わせるか、学校の物を壊して、すべてを彼女のせいにすることだ。そうなったら、今まで以上に風当たりは厳しいものになる。
(飛び出して止めるか? いや、そんなことしたらアイツが教室にいられなくなる)
袴田は考えるだけで、動こうとはしなかった。――いや、動けなかった。何度も喧嘩の最中に感じる殺気を潜り抜けてきたはずなのに、一歩踏み入れただけで襲ってくる、卑劣で欲にまみれた空間が気持ち悪くて仕方がない。
(なんでだよ、なんで――!?)
周りの目なんて気にしてない。自分がどうあるべきかと考えて拳を振るってきたはずなのに、この場で飛び込めば、自分が完全に周りから突き放されることを悟った。振り払ったはずの不安がまた押し寄せてくる。
(……もしかして、怖いのか?)
気にしない、考えない――そう自分に言い聞かせても、袴田は動けなかった。
すると、突然ガシャン! と大きな音が廊下まで響いた。何かが倒れたようで音が聞こえた教室の中を見れば、落書きだらけの机が横たわっていた。菊の花がへし折られる形で入ったペットボトルgは、床に転がって、蹴り上げた脚を戻した彼女の足元に辿り着く。
「こんなことして、楽しかった?」