学校側に悪いイメージがついてきた頃、あるクラスで一人の女子生徒が孤立していることを知った。
 いたって平凡な容姿で、そこそこの成績。教室の端にある席に座って誰とも話すことはない、黒子のような存在だった。
 そのせいか、あるグループが彼女をターゲットにし、在らぬ噂をでっち上げて楽しむようになった。ある時には彼女が他人のロッカーを開けて貴重品を盗んだと言い、またある時は定期テストでカンニングしていたと言う。教師に問い詰められるも、彼女はすべて否定した。決定的な証拠はもちろんないため、教師はクラスメイト全員に注意し、女子生徒にのみ「今度出てきたら即退学させる」と脅したらしい。
 それ以来、クラスで何か事件が起きると、クラスメイトと担任教師は真っ先に女子生徒を疑うようになった。孤立してしまった女子は不登校になるのでは、と誰もが思っていたが、何事もなかったかのように登校し、味方のいない教室で授業を受けている。聞き分けがいいのか、諦めたのか。ただ黙って教室の片隅にいる奴をクラスメイトは皆、置物のように見ていた。

 そんな女子生徒と袴田が出会ったのは、それからすぐのことだ。
 ある日の放課後、袴田と同じクラスの男子生徒が悪名高い複数の高校生に絡まれているところに遭遇した。一方的に殴られていたのを見て、袴田が間に入って懲らしめたが、通報を受けてやってきた警察官は「袴田が原因で男子生徒が巻き込まれたのではないか」と疑ってきたのだ。男子生徒は必死に庇ったが聞き入れてもらえず、袴田が連行されそうになったところ、通報した彼女が現れてこう言った。

「わ、私が通報したときには、すでに喧嘩は始まっていたんです! その人は途中から入ってきて、彼を庇ったんです。本当に、通りがかっただけなんです。……信じられないならこれはどうですか? 喧嘩していた時の動画です。背中で庇うように戦っているように見えませんか? 警察官は一度レッテルが貼られた人間がすることを、全部悪だと判断して切り捨ててしまうんですか? 疑うことが仕事だとしても、証拠もないのに一方的に決めつけないでください!」

 噂で聞いていた人物とは思えないほど、彼女は警察官相手に口を挟ませる暇もなく状況を説明した。声が若干震えていたのは、久しぶりに口を開いたからかもしれない。結果的に彼女が撮った動画が決め手となり、袴田の無実は証明された。
 髪色を変え、不良だと恐れられてきた袴田が、初めて救われた日だった。