それに比べて私はどうだろう。思っていることは全部綺麗事で、口先だけで行動に移そうとはしない。稀にあったとしても、それは稀でしかない。

「一人で考えてたって出てこないときは出てこないんだから、周りを頼るべき! ……私でよければ、いくらでも付き合うよ」

 佐野さんがニッと口元を緩めると、私も自然に笑っていた。この人には一生敵わないと思うと共に、とても心強く思った。

「じゃあ……もし、もしもだよ? つい最近話すようになった知人が、人の道を踏み外そうとしていたらどうする?」
「……すっごく極端な質問ね。殺人事件にでも関わっちゃった?」
「た、例えばの話だから!」

 怪しいとしかめっ面をしながらも、佐野さんは少し考えて口を開いた。

「私は止める前に話を聞く。何があったのか、どうしてその考えになってしまったのか、とか」
「その人が行方不明だったら?」
「それって行動を起こそうとしてるってこと? だったら探しにいくよ。行きそうなところにあたりをつけて……ああもう、まどろっこしい! 誰の話よ! 私も知ってる人!?」
「だから例えだって!」

 話を聞いているうちに腹立ってきたのか、ヒートアップしていく佐野さんを落ち着かせる。
 確かに袴田くんの事だと言ってしまえば楽だけど、事実上亡くなっている彼の話を出したところで別の問題が発生してしまう。考えているうちに、佐野さんは独り言のように小声で知り合いを片っ端から上げ始めた。

「身近で道を踏み外そうな人……キッシーとか? また淳太とか……」
「いや、だから……」
「僕がどうかしましたー?」
「……え!?」

 いつからそこにいたのか、教室の入口で荷物を抱えた船瀬くんが顔を覗かせていた。入口から私の席まで距離があるのに、どうやって佐野さんの独り言が聞こえたのか。

「淳太が三年の教室近くにくるの珍しいね。その様子だと……荷物持ち?」
「はい。数学研究室に先生の荷物を戻しに行く途中で、先輩たちを見かけてつい。僕のことを名前で呼ぶのは、佐野先輩くらいしかいませんからね」
「そんなに呼んでたっけ?」
「それはもう、飼い犬を呼ぶ勢いで。何かあったんですか? 佐野先輩は粗ぶってるし、井浦先輩は困り顔だし。役に立つかは分かりませんが、聞かせてください」