夏祭りの日を堺に、袴田くんと会っていない。
 休みが明けてすぐに教室や屋上を探したが、彼らしき人物は見当たらなかった。
 彼の姿が見える条件から私が外れて、目に映らなくなってしまったのかもしれないと不意に思ったことがある。私が無意識にいないものと捉えている可能性も捨てきれない。
 今も窓側の席で寝ているか、屋上でお気に入りの給水タンクの上で昼寝をしているか。はたまた、気分転換に町に出掛けているのかもしれない。近くにいるかもしれないという思考を持ちながら生活するのは、監視カメラで視られているよりも苦痛だった。

 ――『止めたいなら、俺の心残りを見つけてよ』

 あの日、袴田くんから半ば強引に渡された挑戦状にずっと悩んできた。
 彼が成仏しないことに不思議と思いながらも深く考えたことは正直なかったかもしれない。一緒にいることが多くて、生前のように話す姿は生きているものそのものだった。
 幽霊がこの世に留まるのは、生前の後悔や心残りといった未練があるからだと聞く。
 以前、袴田くんが言っていた、彼にとって学校がすべてが本心なら、彼は日々を高校生として過ごす中で心残りを解消していたはずなのだ。だからそれ以外と考えるのなら、一つだけ。
 自分を死に追いやった張本人――吉川明穂への復讐だ。
 例え背中を押したのが彼女でなかったとしても、袴田くん自身が日頃から鬱陶しく思っていた可能性もある。ストレスが恨みに繋がっても不思議ではない。
 それに夏祭りのあの日、黒い靄が渦巻くビー玉を掲げて見せてきたそれを、吉川さんの魂だという。
にわかに信じられないが、彼女が起きない理由があるとするならそれが原因かもしれない。
 しかもそのビー玉を体内に取り込めば、彼女は死んでしまうとまで言っていた。
 今まで普通に人が食べるもの――特に岸谷くんのお弁当とか、岸谷くんに買わせたコーラとか――を口にしているのは何度も見てきたし、空になっているのも私以外の人でも確認している。だから生前と同じように空腹になるのかと思い、本人に聞いてみると「食べたいときに食べているだけ」と、ざっくばらんに流されてしまった。
 春先に見た、桜の花びらが彼の手の中でボロボロに崩れて消えてしまったあれは、桜の花びらから精気を吸い取っていたとしたら――それが彼にとって本当の食事だったのかもしれない。