「……どういうこと? 吉川さん?」
『学校近くのコンビニで立てこもり事件があっただろ? あの時に回収しておいたんだ。本体は病院で寝ていることになってるけど、俺がコレを体内に取り込めば、アイツは魂を食われたことになる。――つまり、死ぬってワケ』
「……何を言ってるの?」
『そしたらお前や岸谷に関わることもなくなるし、俺も復讐できて大満足! 一石二鳥ってやつ? 俺の心残り全部をビー玉一つで解決しちまうんだから、ちょー最高じゃん!』
「ダメだよ……そんなの絶対ダメ!」

 歓喜の声を挙げる袴田くんを遮って、夜の誰もいない教室で声を荒げた。こうでもしないと彼はきっと聞き入れてくれない。それでも袴田くんは続けた。

『お前、都合よく忘れたとか言うなよ。机にされた落書きや花も、フェンスごとお前を落とそうとしたのも全部アイツの仕業だ。俺が間に合わなかったら、お前が死んでいたかもしれないんだぞ』
「分かってるよ! でも……っ」

 忘れるわけがない。
 今でも教室に行けば、机の上に飾られた花を思い出して怖くなるし、屋上のフェンスに背を向けた時は死ぬかもしれないと思ってなるべく校舎側に背を向けるようにしている。
 恐怖のあまり足がすくんで動けなくなることもあったけど、いつも袴田くんが助けてくれた。

「……こんなの、ちがうよ」

 私はお気楽で、自分勝手な人間だと思う。
 殺したくなるほど恨んでいても、許してあげてって言っちゃうし、殴り合いの喧嘩よりも話し合いで平和的に終わらせたい。袴田くんの後悔や怒りすべてを、私は理解してあげられない。

「こんなの復讐でも何でもないよ! 袴田くんは、卑怯な手を使う人間じゃない!」

 生前の彼と関わりがほとんどない私にとって、この言葉は彼にとって、侮辱に聞こえてしまうかもしれない。
 でも他に、言葉が見つからない。

「袴田くんに、悪役は似合わないよ」

 言葉足らずでごめん。でもこれしか彼に伝えられない。選択を後悔する前に立ち止まってほしいだけなのに、私の言葉が彼を追い詰めるばかりだ。
 すると、窓の外で一発目の花火が打ち上げられた。視界の端に黄色の大きな花が夜空に咲くと、色とりどりの花火が次々と上がっていく。こんな状況でなければもっと素敵に見えただろう。

『……お前は、あの頃から何も変わってないんだな』

 花火の打ち上げが一瞬止まると、袴田くんは私に提案した。
 ……いや、提案というより、挑戦状というべきか。

『止めたいなら、俺の心残りを見つけてよ』

第三章 渾身の一撃    〈了〉