警察の聴取で詳しい話をした後、船瀬くんが私にだけこっそり教えてくれた。
 時間が止まったかと思えば、突然現れた金髪の人物に指摘されたうえ、一発殴られて目が覚めたのだという。詳しい話は教えてくれなかったし、なぜ殴られる破目になったのかは分からないけど、船瀬くんは以前よりスッキリした顔をしていた。

「私が袴田くんと同じクラスだったって言ったんだって? 会った時にお礼を言いに行くから呼び止めておいてくれって頼まれたよ」
『くははっ。大したことしてねーよ。ただ、アイツが復讐するためにちょっと手を貸しただけだ』

 袴田くんはそう言って小さく笑った。その表情はとても生き生きとしていて、喜んでいるように見えた。復讐なんて物騒な言葉が、今だけは希望のような言葉に聞こえてしまうくらいに。
 もうじき打ち上げ花火が上がるのか、グラウンドのライトが消えて屋台の灯りだけが残った。今頃多くの人たちが空を見上げて待ち構えているのだろう。屋上で待っている佐野さんたちも楽しみにしているはずだ。

『そろそろ始まるな。屋上に行くなら……井浦?』

 ずっと黙っている私に、袴田くんは顔を覗き込むようにして聞いてくる。弱いながらも外の光で照らされた金髪が白っぽくて、このまま溶けてしまいそうに見えた。
 私は思わず彼の腕を掴む。長袖越しから伝わってくる彼の体温は、氷のように冷たかった。

「……何を、考えてたの?」
『急になんだよ』
「この間まで岸谷くんに自分の姿を見せられたのに、急に声だけしか共有できなくなってたのが気になった。楽しいことが好きな袴田くんが、ずっと屋上で見物してるとは思えない。……顔を合せてなかったから、余計に気になって」

 本当は、ずっと前から違和感を感じていた。
 夏休みが終われば、袴田くんが事故に遭った秋がやってくる。もう一年もこの世を彷徨っているのに、彼は一向に成仏しようとはしない。生きていた頃の心残りがあるからと思い込むようにしていたけれど、条件付きとはいえ突然現れて助けに入ったり、時間を止めて巻き戻したりなんて、幽霊にしては特殊な能力を持ちすぎている。人が亡くなった後のことは私には分からないけど、彼は異常な存在なのではないか、と思ってしまうのだ。
 すると袴田くんは、小さく息を吐いて窓の方を向いた。