警察の事情聴取から解放されたのは、丁度抽選会が後半に差し掛かったところだった。
 すでにブースの片付けを終えていた佐野さんと野中くんは、手当されて戻ってきた私と船瀬くんの姿を見て驚き、何があったのかと問い詰められた。佐野さん相手に隠し通せるはずもなく、白状すると、二人は涙目になりながら私達に怒ってくれた。

「もっと自分を大切にして! もうダメ、喧嘩絶対ダメ! キッシーに言って根本的に無くしてもらおう!」
「いや、それはどちらかというと学校側が……何でもないです!」

 なぜか闘志を燃やしている佐野さんに、野中くんと船瀬くんは未だついていけず、ひとまず花火が見える特等席――学校の屋上へ移動することにした。岸谷くんが「袴田もいた方が楽しいだろう」と提案してくれて、屋上の鍵を貸してもらえることになったのだ。後で彼も合流するという。
 軽く食べられるものを持って行くと、相変わらずコンクリートとフェンスだけの寂しい光景が広がっている。学校の屋上に、しかも夜に立ち入れることなど普通はできないから、優越感に浸ってしまう。
 しかし、袴田くんの姿はどこにもいない。お気に入りの給水タンクの上で寝ているのかと思いきや、隠れている様子もなかった。どこか散歩にでも行っているのだろうか。

「あれ、井浦ちゃんどうしたの?」
「ちょっと、教室に忘れ物を取りに行ってくるね」
「もう少しで花火始まっちゃいますから、早くしてくださいねー!」

 ぼんやりと照らされた階段と廊下を抜けて、数日ぶりの教室に向かう。グラウンドから届く光が校舎まで届いて教室の窓側の席を照らしている。
 袴田くんは自分の机に寄り掛かって窓の方を眺めていた。教室の入口からだと後ろ姿しか見えないから、彼がどんな顔をしているのかは分からない。
 声をかけようか躊躇っていると、袴田くんが察したのか、顔だけをこちらに向けた。

『井浦? 何してんの?』
「えっと……は、袴田くんが屋上にいなかったからここかなって」
『は? 今日は出入り出来ないハズだろ。わざわざ登ってきたわけ?』
「岸谷くんが屋上を開けてくれたの。佐野さんと船瀬くん、野中くんも一緒」
『うわっ……相変わらず濃いメンバー揃ってるな』
「……袴田くんも、でしょう?」

 呆れてそう言うと、『それもそうか』と鼻で笑ってまた窓の方を向いてしまう。逆光でよく見えなかったけど、何となく思いつめているような気がして、私は彼の隣に立った。

『どうした? そろそろ花火だろ?』
「……船瀬くんから聞いた。袴田くんが助けてくれたって」