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 同時刻、北峰高校のグラウンドに集まった多くの人は、毎年恒例の抽選会の当選番号に夢中になっていた。誰もがステージの方に目を向ける中、高御堂晃はかき上げた前髪を手櫛でさっと直してコブが出来た額を隠すと、何事もなかったかのように人混みをかきわけて、ようやく会場の外へ出る。
 いろんな年代の近隣住民が集まって賑わう会場の裏で、学校を背負った喧嘩が繰り広げられ、高御堂一人だけが逃げてきたことなど、知る由もない。

(祭りなんてバカらしいと思っていたけど、今回ばかりは助かった……!)

 通り沿いに警察官が立っているのが見えると、高御堂は人気の少ない路地裏に入って先を急いだ。

「北峰の奴ら……っこのままで終わると思うなよ……!」

 南雲の不良たちは弱くない。腕っぷしには皆自信があるし、勝つためならどんな手段でも構わない。歴代の先輩たちに教わったことを引き継ぎ、高御堂の財力を得たことによって、更に大きな組織に拡大していった。そして最強の不良と謳われた袴田が亡き今、体制が整っていない北峰を潰すには絶好のチャンスだった。
 南雲の敗北は在り得ないと確信していた彼らは、自信満々に北峰に仕掛けていった。新入生を脅して情報を流させたり、関係のない女子生徒を巻き込んで大事にしたり、出来ることは全部やった。
 しかし、すでに岸谷によって組織化が進んでいた北峰は一枚も二枚も上手だったのだ。
 ましてや駒のように扱っていた船瀬でさえ、畏れることなく高御堂に頭突きをかましてきた。絶対的な自信を持っていた高御堂にとって、これほど屈辱的なことはない。早く次の手を考えなければ。
 今歩いている路地を出れば、駅に繋がる大通りに出る。そこでタクシーを拾ったら、老後を楽しむといって田舎の方へ移り住んだ祖父母に匿わせて貰うつもりだった。なんせ祖父母は孫の事が可愛くて仕方がなく、欲しいものは何でも与えてくれる。信頼出来る二人であれば、両親からの連絡を断ってくれるだろうし、しばらく身を隠して、南雲の体制を立て直す事ができると考えた。

 あと少しで大通りへ抜け出せる――といったところで、高御堂の前に一人の男が立ちふさがった。

「おい、そこをどけ! 俺は急いで……!?」

 高御堂は男を見て驚いた。夏だというのに冬服のジャケットを羽織った北峰の制服姿、通り過ぎる車のヘッドライトは照らす度に煌めく金髪に、左耳の黒い二連ピアス。その姿から誰もが恐れた北峰の不良――袴田玲仁がいたのだから。