――それは、本当にあっという間の出来事だった。

 上手く挑発して、南雲の不良たちの視線をこちらに向けたのがいいが、自分の身の安全については何も考えていなかった私は、高御堂が近付いてくるのが見えた途端に目を閉じた。殴られるかもしれないし、もっと酷い事をされるかもしれない。
 最悪な結果が浮かんだ途端、少し離れたところで南雲の不良たちが騒ぎ出した。そっと目を開けて見れば、つい先程まで不良たちに捕まっていた船瀬くんが抜け出して、高御堂に掴みかかっていたのだ。そして頭を大きく振りかぶり、頭突きをお見舞いした。
 まさに渾身の一撃、というべきか。船瀬くんの石頭をくらった高御堂は目をまわした。彼の後ろに立っていた私と、私の腕を拘束している不良に二人が雪崩れ込むと、そろって湿った土の上に転んだ。
 一番うえに船瀬くんが乗るように積み重なったその山で押しつぶされそうになるも、後ろで私の腕を掴んでいた不良が手を解いた。

 ――今だ!

 私は高御堂を蹴とばしながらも這い出ると、スカートのポケットに入れていた防犯ブザーを取り出して、ピンを思い切り引っ張った。
 甲高いブザー音が辺り一帯に響き渡れば、建物に囲まれた空間で音が反響して大きくなる。高御堂や不良たちは慌てて耳を塞ぎ、その場に顔を伏せる。
 すると船瀬くんが私の腕を掴んでグラウンドの方へ走り出した。それにいち早く気付いた高御堂が叫んだ。

「クソ――おまべっ!?」
「自分で渡したのが仇になったね、返すよ!」