――『お前の身長もひねくれた性格も、全部がお前の武器だ』

　すぐ近くで言われたような、ハッキリと聞こえた言葉に船瀬は息を呑んだ。そして一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、背後で拘束している不良の顎に向かって、大きく頭を振り上げた。

「いっだぁ!?」

　船瀬は生まれつきの石頭だ。勢い任せに振り上げた頭はみごとに不良の顎に当たり、あまりの衝撃に怯んで拘束が解けた。そのわずかな隙に抜け出すことに成功する。小柄な体格の船瀬はあっという間に不良たちを翻弄した。自分の倍の体格と身長、パワーを持つ複数名に、たった一人で出し抜いたのだ。突然のことで慌てている彼らを放って、船瀬は真っ直ぐ高御堂の方へ走り出す。
　高御堂も、まさか彼がこんなにも大胆な方法で抜け出すとは思っていなかったようで、呆気なく出し抜かれた彼らを見て目を丸くした。
　指示を出そうと口を開いたと同時に、いきなり胸倉を掴まれて前へと体勢が崩れる。いつの間にか船瀬が懐に入ってきていたことに気付いていなかったのだ。
　船瀬はそのまま彼の胸倉をしっかり掴んで、自分の頭を大きく振りかぶった。

「待っ……！」
「――いつまでも、負けっぱなしの僕だと思うな！」

　辺り一帯に鈍い音が響く。
　船瀬淳太はもう迷わない。この瞬間にも自分が動き出さなければ、今までと何も変わらないのだから。