――途端に頭に物理的な痛みを感じて、船瀬は目を覚ます。ぼんやりとした視界が次第にクリアになってくると、高御堂が自分の頭を掴んだまま、井浦の方を向いて睨みつけているのが見えた。
 あれは本当に夢だったのか。今でも南雲の生徒に羽交い絞めにされていて、身動きが取れない。しかし、口の中に広がる鉄の味や右の頬がじりじりと痛むのは、夢や妄想ではないことを訴えているようだった。

「……ふざけるな、そんな挑発で俺たちが負けるわけがない!」

(あれ? その言葉、さっきも……?)

 井浦の挑発に、高御堂のこめかみが小さく動いた。癪に触ったのか、船瀬の頭を荒々しく離して、彼女の方へ歩き出す。

「何度だって言ってあげる。北峰は汚い手で勝とうとする奴らなんかに負けない。少し考えたら分かるでしょ? それとも……バカなの?」

 止めなくては、と船瀬が身をよじると、ほんの少しだけ拘束する力を弱まっていることに気付いた。高御堂が乱雑に手を離し、井浦に気を取られていて拘束が緩んでいる。今なら抜け出せるかもしれない。
(でもその後は? もし失敗したら?)

 次の手が考えても出てこないことに唇を噛み締めると、ふと彼に言われた言葉が過ぎった。