クラス替えで離れてしまったのだろうか。
 過去形の言い方が気になっていると、金髪の少年は高御堂の前で強張った表情で対峙する井浦を見つめていた。隙間から見える左耳の黒い二連ピアスが揺れ、整った横顔にぞっと怒りがちらついたように見受けられた。

(いったい何が起きているんだ?)

 困惑する船瀬を置いて、金髪の彼は言う。

『いいか、よく聞け。今止まっている奴らが動き出したら、お前は真っ先にタカドーに飛びかかれ』
「は、はぁ!? 僕ができる訳ないじゃないですか! って、タカドーって……」
『このキノコヘッドだよ。タカドー』
「いや、高御堂ですよ」
『やかましい。つか、できるできないじゃなくて、やれ。時間が動き出したら、岸谷たちが来るより先に袋叩きにされるぞ』
「岸谷先輩も知っているんですか!? ってここに来るって……」
『でも間に合わない。その前にお前が動け』
「それは……僕が動かないと、井浦先輩を助けられない……?」
『そういうこった』
「……ふざけないでください、僕より強いあなたが、どうして井浦先輩を助けられないんですか!」

 以前助けられた時に少年が見せた強さは圧倒的で、船瀬が喉から手が出るほど欲しいものだった。それなのに彼は、同じクラスメイトだった井浦を助けることなく、他人に任せようとしている。彼にとっては策略だと思っているのだろうが、船瀬にとっては屈辱的に聞こえた。

「僕なんかが不良たちに敵うわけがないのに、どうして僕に押し付けるんですか! あなたも彼らと同じ、高いところから見下して、僕のことを笑うんでしょう? そうなんでしょう!?」

 校舎裏に船瀬の怒鳴り声が響き渡る。自分でも出したことのない、腹から出た言葉はどれも本音だった。自分がいなければ、井浦が危険な目に遭わなかった。自分がいなければ、金髪の少年を傷つけるような事を言わずに済んだ。――言い訳を並べて逃げる自分が、一番嫌いだった。
 金髪の少年は溜息を吐いて頭を抱えた。あまりにも大きく落胆する姿に船瀬は戸惑っていると、突然彼が船瀬の左肩に手を静かに置いた。

『……ちょっと面貸せ』