ふと、船瀬の脳裏に金髪の少年の姿が浮かんだ。圧倒的な強さで、自分の何倍もある不良たちをたった一人で立ち向かった、あの少年の存在を。
 強い人で在りたかった。強くて、誰かを助けられる、あの人のようになりたかった!

「……っ、止めろおおお!」

 悲痛な叫びに、高御堂が彼の方を向いて口元をニヤリと歪ませた――その瞬間、パチンと何かが弾けた音がした。それがなんの音だったのか、船瀬にはどうでも良かった。早く井浦の元へ駆け寄ろうと、不良たちからの拘束を逃れようと身をよじる。すると、先程よりも緩んでいることに気付いた。

(……なんで? さっきまであんなに掴んできたのに……?)

 見上げれば、のしかかっている不良たちが、あろうことか固まっている。つい先程聞こえた謎の音のせいか、船瀬を除くこの場にいる人間すべてが一斉に動きを止めたのだ。
 瞬き一つもしない彼らに対し、自分だけが動けることに驚きながら周りを見渡した。風が吹いていたのか、近くの木々から離れた新緑の葉っぱが空中で止まっている。

『――ったく、フラグ立ててんじゃねぇよ』
「……え?」

 船瀬のすぐ近くで聞き覚えのある声が聞こえる。身動きが制限された中で入ってきた視界の中に、あの金髪の少年が現れると、船瀬は言葉を失った。夏にも関わらず、フォーマルの制服を着こなす彼は、ズカズカと目の前にやってくると、彼を抑え込んでいる不良の腕を力任せに外していく。

「あ、あの……」
『さっさと出てこいよ。ずっとそこにいたいのか?』
「で、でも……」
『長くもたねぇんだから早くしろ』
「ヒッ! は、はい!」

 睨まれながらも金髪の少年が外したところから抜け出す。まだ完治しきれていない右腕は、じんじんと痛んだ。他にも掴まれた腕の痕を気にしながらも、船瀬は彼に問う。

「あなたは……この間助けてくれた人、ですよね? 何者なんですか? これはいったい、何が起きているんですか?」
『言っただろ、長くはもたねぇって。いちいち説明なんてしてられるか』

 状況が上手く呑み込めない船瀬をひと蹴りすると、金髪の少年は続けた。

『で? 復讐したい奴は見つかったか?』
「え? いや、あの……」
『もったいぶんなよ。手伝ってやってもいいんだぜ?』
「……っい、今はそんなことどうでもいいんです! これはいったい、なんなんですか?」
『くどいな。お前、井浦よりもくどいぞ』
「井浦先輩と比べられても……って、先輩を知っているんですか?」
『……まぁ、同じクラスだったしな』
(「だった」……?)