「なんとでも言えばいい。俺からしたら、その最低だという俺を見て笑ってる君のほうがおかしいと思うけどね」
「……え?」
「気付いてないのか? 君、笑っているんだよ」

 高御堂に指摘されて、自分の口元が緩んでいることを知る。
 ……ああ、そうか。本当に最低だと思ったんだ。
 南雲の不良たちが北峰にどんな屈辱を受けてきたのかなんて、何一つ知らない私が口を出すべきではないことくらいわかっている。彼らの喧嘩事情なんて、私にはどうでもいいことだ。
 でも少なくとも袴田くんや岸谷くん、そして北峰の生徒は、自分を犠牲にしてでも他人を喧嘩に巻き込むようなことはしなかった!

「私、あなたが袴田くんに勝てない理由が分かった気がする」
「……へぇ、そんなこと言っていいの? 自分の状況分かってる?」
「自己顕示欲を振り撒いて満足してる時点で、袴田くんたちに敵うわけがない。……それに、ここにはもうすぐ夏祭りの巡回隊がくる。さっさと逃げた方がいいんじゃない?」
「……ふざけるな、そんな挑発で俺たちが負けるわけがない!」
「っ……!」

 プライドを焚きつけてしまったのか、船瀬くんの頭から手を離した高御堂は、苛立った表情でこちらへ近付いてくる。
 もっと違う方法があったかもしれない。言葉を選ばずに発した私の自業自得だ。仮に今、袴田くんが現れて私の身体に取り憑いて暴れてくれるというのなら、今回ばかりは喜んで差し出そう。
 でもきっと彼のことだから、大人数の前には現れないだろうし、復讐する相手ではない以上、手出しはしない。
 だから引き下がれなかった。これから前を向こうと頑張る船瀬くんを、私を助けてくれた人を貶す言葉がどうしても許せなかった。

「何度だって言ってあげる。北峰は汚い手で勝とうとする奴らなんかに負けない。少し考えたら分かるでしょ? それとも……バカなの?」