「やっぱり……僕が、僕なんかが、関わったから……」
「そんなに悲観しなくていい。君はよくやってくれた。君という存在があるだけで、北峰は地に落ちる。君は俺の役に立っているんだよ。――もう用済みだけどね!」

 卑劣な笑い声が校舎裏一帯に響き渡る。グラウンドで行われているライブの音源が、ここまで微かに聞こえてくるのだから、どれだけ笑い、泣き叫んだところで声は届かない。すべて高御堂の手のひらに転がされていたのだ。
 私も船瀬くんも身動きがとれない以上、何かアクションを起こしてもすぐに揉み消されてしまうのは明白だ。
 緊迫する空気の中、私はずっと船瀬くんを彼らから引き離す方法を探った。ようやく前を向こうとしている彼を、こんなことで逆戻りにさせるわけにはいかない。なんとか拘束を解こうと身をよじるが、やはり男女の力の差には敵わない。
 すると、高御堂は掴んでいた私の腕を他の生徒に渡して船瀬くんの前に行くと、彼の頭を掴んで強引に顔をあげさせた。

「フフッ……その絶望しきった顔、岸谷にも見せてやりたい。……いや、アイツにこの顔をさせたいな。金欲しさに引き受けたろくに喧嘩も出来ない大学生相手では物足りなかったみたいだし、君を痛めつけておけば本気も出すだろう」
「……そこまでして何がしたいの? ただでさえ警察沙汰になっていたのに、これ以上昔の喧嘩にこだわってどうするつもり!?」

 私が背中越しに問いかけると、高御堂は横目で睨みつけた。

「昔の喧嘩なんて学校側の理由さ。実際は、誰かをぶっ飛ばす事でスッキリする奴らがいるんだから多少の犠牲くらい構わない。自分の身が可愛い学校側は、そんな理由で取り締まらないんだ。……そうだな、岸谷は袴田の代わりだ」
「袴田くん‥…?」
「袴田はくだらない事故で死んだ。結局運がなかったってことだ。そんな奴に俺が負けるなど、ふざけたことがあってたまるか! 袴田がいないのなら、トップに立っていた北峰を潰すだけ……それに、大企業の好青年を演じた俺と喧嘩のトップを謳う不良。学校側に口封じするのだって簡単だろう?」
「…………最っ低」

 あんなに爽やかな笑顔を振り撒いていたとは思えないほど、高御堂は人を見下して嘲笑う。この一件も、警察沙汰になる前に口止め料を払って解決するつもりだ。
 なんてクズなんだろう。その口止め料も学校への信頼も、自分で得たものではないのに!