「演技……？」
「そう、全部演技だよ。でも残念だなぁ。そこそこ巷で有名な部類の人間のつもりだったんだけど、俺のことを知らない奴がいるなんて」

　ニヤついた笑みを浮かべながら、私を引っ張って船瀬くんの方へ近付いていく。途中で前髪を掻き上げて、「まだわからない？」と、自分の前髪をかき上げた。

「俺は高御堂晃。高御堂コーポレーションの社長の息子で、南雲第一のトップさ」

　ブザーの彼――改め、高御堂は掴んでいた私の腕を掴んだまま引っ張って、船瀬くんに近付いていく。

「船瀬くん、君には大変感謝しなくてはいけない。なんせ君が情報を流してくれたおかげで、北峰を潰す準備ができたのだから」
「え……？」
「君を脅し、北峰の情報を流して岸谷を呼び出すように指示をしたのは俺だよ。最近の岸谷は意図的に喧嘩を避けるようになった。それがどうしても気に食わなくてね。なんせ、南雲と北峰の喧嘩は伝統だ。これを続けていくことに意味がある。袴田が亡き今、戦力はこちらの方が上。岸谷が伝統を断ち切るのならば、今ここで決着を付けたいのさ。そのために君たちを人質にさせて貰うよ。なぁに、無駄な抵抗さえしなければこちらも手を出さない。自分の身を大切にした方がいい。他の友人たちにも迷惑をかけたくなければ尚更だ」
「……あなたは、たかが喧嘩のためだけに僕を騙して、岸谷先輩を脅すためだけに、無関係な先輩たちを巻き込んだんですか？」
「巻き込んだ？　それは言いがかりだな。君たちが勝手に付いてきただけだろう？　落とし物をして困っている一般客を不憫に思って一緒に探しに出たら、偶然不良の溜まり場に居合わせたんじゃないのかい？」
「最初から僕らを嵌めるつもりで……！」
「誰が証明できる？　君の話を誰が信じてくれるんだい？　一度南雲に手を貸した君を、北峰の奴らが信用するとでも思っているのか？」

　高御堂の言葉がナイフのように鋭く尖り、船瀬くんに向かって刺さっていく。執拗な言葉攻めだけでなく、こうなってしまった現状を理解している彼は顔面蒼白で、必死にもがいていた抵抗も止めてしまった。