「え?」
「探さなきゃ、早く船瀬くんを探さないと!」
「井浦、落ち着けよ」
「オイオイ、嬢ちゃんは心配性か? そんな心配しなくても男なんだから大丈夫だろう」
「でも彼は怪我をしているんです! 絶対安静だと病院にも言われていて……」
「男なんだから別にやらせておけばいいじゃねぇか。それとも、嬢ちゃんもこいつらみたいに喧嘩すんのか? だったら今すぐ止めた方がいい。年頃の嬢ちゃんが喧嘩してちゃ、彼氏出来ねぇぞ」

 ああ、どうして大人は非常事態ってときに余計なお節介をするんだろう。
 彼氏が一生できないことくらい、誰よりも私が一番分かっている。――それがどうした。

「……わかりました」
「そうそう。だから――」
「もし船瀬くんが怪我をして帰ってきたら、私はここで引き留めたあなたを一生恨みます」
「は――?」
「私、先に行くね。岸谷くんよろしく!」
「おい、井浦!」

 岸谷くんの制止する声を振り切って、私は走り出した。
 視界の端でとぼけた顔をする岩井さんが見えたけど、構わず人混みを抜けて、校舎裏へ向かう。

『一人で乗り込む気か。アホだろお前』

 グラウンドを抜けたあたりから、袴田くんが涼しい顔をして並走する。きっと本部でのことも見ていたのだろう。

『お前があのまま黙っていても岸谷が動く。完全に空振りに終わるぞ』
「ダメだよ、岸谷くんは巡回隊の責任者を任されている以上、思い切った行動はできないから」
『なんだ、ちゃんと考えてんじゃん。確かに井浦が本部を出た後、岸谷が町内会と巡回隊を集めて仕切り始めた。岩井っていうおっちゃんは苦い顔してたけどな。そんなに彼氏できないことを指摘されて悔しかったのか?』
「まさか。子供だとか女だとか、些細なことで見下すことがどれだけ醜いことか知らないで、話を聞かない大人は皆、両耳をちょん切っちゃえばいいと思うの」
『こっわ。俺、久々に人間が怖いって思ったわ。誰の影響を受けたんだ?』

 最強の不良の口から怖いなんて、初めて聞いた。
 その原因が袴田くんだとは、思っても言わないけど。