「ところで、今日はこの間の包帯を巻いていた彼って会場にいるのかな?」
「包帯の……どうしてですか?」
「実はさっき、南雲第一の生徒が校舎裏に入っていくのを見かけたんだ。誰かを囲んで歩いていたから、ちょっと気になって」
「え……?」

 この厳重な警備の目を掻い潜って会場に入ってきた? 
 確かに夏休み時期だし、私服で入ってきたら分からない。夏祭りに不良は出禁といった立て看板があった訳でもないし、むしろ入れて当然なんだけど、校舎の裏に行くのはどう考えたっておかしい。

「俺、これでも人の顔を覚えるのは得意なんだ。彼らの中に、この間絡んできた奴がいたこともばっちり覚えているよ。……俺のこと、信用できない?」
「……すぐには無理ですね。ごめんなさい」

 つれないなぁ。と小さく笑みを浮かべられた。初対面ではないとはいえ、すぐさま他人を信用してたまるものか。南雲の生徒かどうかはともかく、学校の校舎裏に向かったのは聞き捨てならない。
 私は後ろで話に夢中になっている野中くんに言う。

「野中くん、ちょっと抜けてきても良いかな?」
「もちろん大丈夫っすよ!」
「佐野さんが帰ってきたら本部にいるって伝えて。あ、あなたはここにいてください!」

 店番を野中くんに任せ、ブザーの彼をここにいるように釘をさしてから、私は岸谷くんが待機している本部に向かった。
 周りの客は皆、演歌歌手によるメドレーに熱中している。客との間を搔い潜ってやっとの思いで辿り着くと、本部はやけに慌しく、話しかけにくい雰囲気が漂っていた。
 辺りを見渡していると、岸谷くんが私の表情が焦っていたのを察したのか、すぐに寄ってきてくれて「何かあったのか?」と小声で聞いてきた。
 私が先程の不審者の話をすると、岸谷くんは小さく舌打ちをする。

「もう少しでイベントが終わるってのに、このタイミングでかよ……!」
「……何かあったの?」
「ついさっき、この後の抽選会の十等で渡す、手持ち花火セットが盗まれた」

 例年、演歌歌手のライブが終わった後に、会場に入った時に配られたうちわに記載された番号で行う抽選会が予定されている。抽選会の景品は家電から商品券まで、数多くの商品を取り揃えているが、毎年十等は手持ち花火セットと決まっている。夏しか使えないが「これで夏祭りを思い出してほしい」という主催者の思いが込められているという。十等は抽選会のなかでも三十五人分と大量に用意していて、高確率で当たる。だから必然的に手持ち花火も三十五セット用意していた。
 岸谷くんの話によれば、危険物でもある花火セットは学校の職員室に保管されていた。そこから本部のあるグラウンドまで生徒と町内会の人が運んでいたところ、突然見知らぬ男たちに囲まれ、三十五セット分すべて奪われてしまったのだという。