すっかり日が落ちて真っ暗になっても、学校のグラウンドはナイター用の証明で照らされ、更に人が増えて賑わっていた。
 夏祭りは思っていた以上に順調に進んでいた。先程のステージで大盛り上がりだった野中くんと町内会のオオハシさんを目当てに「すっごく面白かった!」「いつからコンビ組んでるの? 本当に即興?」と訪ねてくる人が増え、結果的に集客に繋がってかき氷はまた売れた。
 今のところ、どこかで喧嘩騒ぎになっているという話は聞かない。準備前から身構えていたけど、ただの杞憂でしかなかったのかもしれない。
 ステージ上のイベントはゲストの演歌歌手によるライブが始まって、会場全体にゆったりとした時間が流れている。知り合いが遊びに来ていたらしい佐野さんは一度席を外し、後ろでは野中くんがオオハシさんと意気投合して盛り上がっていた。夏祭りの空気は好きだけど、いざ一人になると孤独感が拭えなくて少し寂しい。

「すみません、かき氷を一つください」
「あ、はい。シロップは……あ」

 カウンター前で一人立っていると、いつかのマッシュカットの爽やか系イケメンが声をかけてきた。

「こんばんは。北峰で夏祭りをやっていると聞いて半信半疑だったんだけど、また会えてよかった」
「防犯ブザーの……人」
「ああ、そっか。名前、言ってなかったね。いいよ、ブザーの人で」

 彼がフッと微笑んだ途端、目の前がチカチカした。眩しい。出来れば目を塞いでしまいたい。近くを通りがかった女性客も振り返って二度見をするほど、彼の笑顔は爽やかで輝いていた。

「こ、この間はありがとうございました」
「いえいえ。誰も怪我しなかったんだし、気にしないで。……ところで、どうして君がこんなところで売り子をしているの?」
「ボランティアです。町内会も学生も人手不足なので」
「ああ、そうなんだ。北峰はいつも人手不足が足りていないね。残念極まりないよ」
「え……?」
「だって君を誘えないじゃないか。ちょっと話してみたかったんだよね」
「ああ、結構です」

 彼の眩しい笑みと共に告げられたお誘いをさらっと受け流す。ずっと岸谷くんを茶化していた袴田くんはいつの間にかいなくなってる。
 こういうときにいてくれるとすごくありがたいんだけど。――と、今度悪態をついてやろう。