「そういえば、岸谷くんといつの間に仲良くなったの?」
「あの事件が終わって、二、三日経ったぐらいですかね。改めて事情聴取を受けた後、先輩が『メシ行こうぜ』って言ってくれて、牛丼屋とファミレスをはしごしました」

 最初からファミレスに行けばよかったのでは、とは思うだけで口にはしない。

「そこで先輩が突然、『不良同士の喧嘩に巻き込んで悪かった』って謝ってきたんです。確かに僕は北峰の生徒というだけで巻き込まれましたけど、すべてが先輩のせいじゃない。僕にだって悪いところがあったんです。万引きを目撃したとき、脅されても屈しなければよかった。嘘をついてでも全力で逃げて交番に駆けこめばよかった。彼らの話に惑わされず、直接先輩を問いただせばよかったって、何度思ったことか」

 かき氷をすくう手が止まった。カップの側面に付いた水滴は、船瀬くんの手を伝って地面に落ちる。

「……だから、あの金髪の人に『一番仕返しをしたかった奴は誰だ』と言われた時、ようやく気づいたんです。僕は、後悔を言い訳にして逃げた自分が恥ずかしかった。万引き犯だと洗脳されかけた弱い自分が嫌いだった。……一番復讐したかった相手は岸谷先輩じゃない、自分自身だったんです」

 「一番仕返ししたい奴」――袴田くんが一度だけ、船瀬くんに吐き捨てるように放った言葉。
 あの時はただの暴言じゃないかって思っていたけど、彼にとって一番欲しかったものだった。喧嘩に巻き込む、巻き込まれるといった対照的な二人だけど、何か通じるものがあったのだろう。

「でも、分かっただけで何もできないんです。だってそうでしょう? 自分が嫌いだって分かって、どうしろっていうんです。好きになる努力なんて……」
「船瀬くんってさ、自己肯定力がすっごく低いよね」

 ギクッと肩を大きく動かして分かりやすく反応すると、船瀬くんが苦笑いでこちらを見る。
 そりゃあ、お前が言うなって話なんだろうけど。