[長編]隣の席の袴田くん、死んで神になったらしい。

   ***

 数日後、夏祭り前日に会場準備のために登校すると、すでにグラウンドには店ごとのテントが立ち始めていた。町内会の人も入ってきて、生徒会やボランティアの生徒が立ち会って話し合いを進めている。
 とはいえ、担当であるかき氷ブ―スは、テーブルと氷を保存しておくストッカーの準備程度だが、責任者の佐野さんと町内会の人との打ち合わせをしている間、私と野中くんは体育館からパイプ椅子を運ぶ作業を手伝っていた。

「井浦先輩、大丈夫ですか? やっぱり持ちますよ」
「だ、大丈夫。野中くん、先に行っていいよ」
「……わかりました、サッと置いてすぐ戻ってきますね!」
『オイオイ。一年に負けてんじゃん。あと数メートルだ、頑張れー』
「だったら手伝ってよ……!」

 六つのパイプ椅子を抱えて体育館からグラウンドへ、体力を使う作業を野中くんや他の男子生徒が涼しい顔でこなしていく。
 二つを抱えて若干引きずりながら歩く私の隣を、さも当然のように袴田くんが並んだ。いつもなら幽霊みたく浮いているのに、今日はスラックスのポケットに手を突っ込んで歩いている。珍しいからか、なんだか不思議な感じがした。

『それで、そのタカドーって奴が間に入ったおかげで、喧嘩にならずに済んだって?』
「タカドーじゃなくて、高御堂。しかもそれ、ブザーのメーカーだし……」
『名乗らずに帰ったんだからタカドーで充分だろ』
「一応助けてもらった側だからね、私たち。……でも、誰も怪我しなくてよかった」

 私や標的にされた船瀬くんはともかく、無関係な佐野さんと美玖ちゃんにまで巻き込まれた状況で、あの人が通りがからなかったらどうなっていただろうか。今日、隙を見て岸谷くんに連絡先を聞いておかなくては。

『助けてもらった、ねぇ……』
 袴田くんが小さく口元を緩ませる。私が首を傾げると、彼は横目でこちらを見て鼻で笑った。

『偶然なんて、相当のことがない限り起こるわけがねぇって思っただけ』
「……偶然を装って、その場にいたかもしれないってこと?」
『真に受けんなよ。例え話だよ、例え話。それに南雲でそんな豪勢な名前、聞いたことがねぇ。俺がいた頃の話だけどな』

 袴田くんの例え話は何度聞いても嫌な予感がする。本当に偶然かもしれないし、必然だったのかもしれない。
 あの日以来、夏休みに入ったこともあって私が出歩いていないせいか、船瀬くんも南雲の生徒とは会っていないらしい。学校にいる間は岸谷くん率いる風紀委員の姿があるとはいえ、アルバイトの帰り道で鉢合わせしなかったのは少々気味が悪い。
 唸って考えていると、袴田くんはつまらなそうに横目で見てくるのに気づいた。

「え、なに?」
『タカドー、そんなにイケメンだったワケ?』
「……イケメンだったんじゃない?」

 佐野さん曰く。

「マッシュカットが似合う爽やか系だったよ。それがどうしたの?」
『爽やか王子系のイケメンに助けられるとか、マジで漫画の話じゃねぇの?』
「漫画だったらどれだけよかっただろうね」
『それが井浦に気があったとか』
「まさか。私が学校の屋上から飛び降りて、数メートル離れた先にある植え込みに叩きつけられても無事でいられるくらいの確率でありえないよ」
『くだらねぇ確率を出すな。何、お前イケメン嫌なの?』
「周りが濃すぎて常識人が異人に見えてしまう程度に」
『それもそうか。……ま、お前が屋上から飛び降りて助かる確率はほぼ百パーだ。安心しろ』
「なんで?」
『俺がいるからに決まってんじゃん』
 さも平然と彼はあっけらかんと言い放った途端、私は持っていたパイプ椅子を地面に落としてしまった。
 この人って本当に袴田くんだよね?
 魂入れ替わってたりとかしてないよね?
 彼の素性を疑う反面、急に言われたことによって不意にもときめきかけた自分がいる。悔しい。

「井浦先輩ぃぃい! 野中が、野中が助けに来ましたあああ!」

 パイプ椅子が落ちた音を聞きつけたのか、賑やかな声が聞こえてくる。大騒ぎで戻ってきた野中くんが息を整えながら、私が落としたパイプ椅子を取り上げると、またグラウンドに向かって走っていく。

『確かに、お前の周りは個性が濃すぎて感覚が狂いそうだな。ウケる』
「……それ、自分も入ってること分かってる?」
『そりゃあいい。上等上等』

 くはは、と呑気に笑って、袴田くんは先を歩く。
 その後ろ姿を見て、私はふと漫画や小説みたいなことなら、すでに目の前で起こっているじゃないかと納得してしまった。
 私にしてみれば、この現状が偶然であり奇跡だと思う。本来幽霊が見えるといった霊体質の持ち主でない私が、たまたま死んだ彼と出会い、厄介事に巻き込まれて偶然いろんな人と関わった。これは必然と断言するより、偶然が重なった、の遠まわしで表現するのが妥当だろう。

「井浦ちゃーん! 動線を確認するから来てーっ!」

 グラウンドから聞こえてくる佐野さんの声に慌てて走り出す。袴田くんの隣を追い抜いた時、ひんやりと冷たい空気が頬を撫でた。
 夕焼けと共に、年に一度の夏祭りが始まった。
 屋台から漂う焼きそばやお好み焼き、焼き鳥の匂いにつられて、近所に住む人が次々とグラウンドに入ってきた。特に今年は家族連れが多いようで、小さな浴衣を着飾った子供たちが楽しそうに両親の手を引いて急かしている。

「おねーちゃん、かき氷くださいっ!」
「ぼく、めろんがいい!」
「いちごちょーだい!」
「はいはい、順番守って並ぼうねー。焦らなくても沢山あるから、大丈夫だよ!」

 タピオカの入ったジュースやカラフルな綿菓子の屋台がある中でも、定番のかき氷は列ができるほど好評だった。佐野さんが注文を聞いて、野中くんと町内会の人がひたすら氷を削り、シロップをかけて私がお客さんに手渡しする。氷削り係――という名の調理担当の二人が、これがまたテンポがよく氷を削り、並んだ列をあっという間に捌いてしまった。さらに屋台の前で漫才をして呼び込めば、次々に人が集まってくる。

「へぇ、北峰の子がボランティアなんだ。毎年そうなの?」
「そうなんですよー! 文化祭でも同じ屋台を出すところがあるので、ぜひ寄っていってください。全員が同じTシャツを着ているのが目印ですっ!」

 初めてきたであろうお客さんに、すかさず佐野さんが文化祭の宣伝を入れてくる。生徒は皆、学校規定のスラックス、スカート姿ではあるが、この日のために生徒会が用意してくれたオリジナルTシャツを着て参加している。
 町内会の人がボランティアの生徒と見分けがつくようにしたいとのことで作られたらしいが、これはこれで特別間があって、着ているだけでわくわくした。 
 第二のかき氷ピークが過ぎると、この日のために設置されたセンターステージで、催し物が始まった。小学生の金管バンドから始まって、中学生が文化祭のために練習しているダンス。当初に予定していたタイムスケジュール通りに進んでいく。

「ふーっ! ようやくゆっくり出来そうね。井浦ちゃん、疲れてない?」
「私は平気。……ってあれ、野中くんたちは……?」

 お客さんが引いてやっと周りが見えるようになると、先程まで懸命に氷を削っていた野中くんと町内会の人がいつの間にか消えていた。佐野さんが「あの二人ならあっち」と言いながら、センターステージを指す。確かタイムスケジュール上だと、有志による特技発表だったような。不思議に思いながら目を向けると、「どうもーっ!」と芸人よろしく二人がステージに駆け上っていく。

「飛び入り参加オーケーだから、行ってくるって」

 マイクが入っていないのか、はたまた早口過ぎて聞き取れないのか。即興とは思えないほどテンポの良いべしゃりが始まると、観客席に座ってビールを片手に見ているおじさん達が、腹を抱えて笑っていた。アルコールが程よくまわっているのか、真っ赤な顔をしながらも楽しそうだ。
 しばらくステージを見ていると、本部で待機中の岸谷くんと船瀬くんが立ち寄ってくれた。二人の左腕には“巡回中”と書かれた腕章をしていた。

「あれ、キッシー。仕事中じゃないの?」
「休憩中。船瀬がかき氷食べたいっていうから連れてきた。イチゴくれ」
「僕はブルーハワイをください!」
「はいはい。ちょっと待っててね」

 注文を受けて佐野さんが手際よく氷を削っているのを、船瀬くんが興味津々に眺めている。それを横目に、岸谷くんが私に小声で話しかけてきた。

「井浦、こっちに袴田は来てないか?」
「え? いないの?」
「祭りが始まる前の打ち合わせで『俺は屋上から適当に見てる』って言ってそれっきりだ」
「特に問題がないから連絡しない、とか?」
「そうかもしれねぇけど、ずっと姿を見せないって今まであまりなかったから、ちょっとな」

 巡回隊に参加するのを提案はしたものの、袴田くんが岸谷くんに直接話していたから、てっきり姿を見せているものだと思っていた。自由人とはいえ、あの袴田くんが顔を出さないのは珍しい。むしろ楽しい方に自分から入っていくタイプだし、与えられた仕事はきっちりこなすはずだ。
 そんな話をしていると、後ろから急に冷たい空気が流れてひんやりとした。

『俺がどうしたって?』
「わっ!?」

 私と岸谷くんの間に割り込むように、袴田くんがやってくると、驚いて身を後ろに引いた。

「き、急に出てこないでよ!」
『だって井浦、慣れたって言ってただろ?』
「今のは突然過ぎて無理だよ! いつからいたの?」

 『ついさっき』と反省の色も伺えない顔で言う。袴田くんイコール幽霊(仮)ということを忘れてかけていた。これには岸谷くんも驚いたはずだ。
 しかし、彼を見るとなぜかしかめっ面で両耳を押さえている。

「おまっ、急にデカい声出すなよ! あー……ビックリした、何かいたのか? 虫?」
「……え?」
『あ、やべ。岸谷には見えてなかったんだ。井浦、よろしく』
「よろしくって……」

 なんて人任せな。
 つい最近まで姿を見せていたはずだと口を開こうとすると、袴田くんの横顔が一瞬、雲った顔をしているように見えて、思い留まった。夏休みに入ってからあまり顔を合わせていなかったせいか、こんな横顔をしていたっけ、と急に不安になる。

「この声……井浦、もしかしてアイツがいるのか?」
「え……う、うん。岸谷くんの隣にいるよ」
『くははっ! たまにはいいだろ』

 先程の表情から一転、いつもの袴田くんに戻ると、見えないことを良いことに悪戯を仕掛け始めた。やはり岸谷くんの目には見えていないようで、声だけを頼りにキョロキョロを見回している。
 ……私の思い過ごしか。

「…‥あの、井浦先輩。岸谷先輩は何してるんですか?」

 すぐ近くでシャリシャリと涼しげな音が聴こえてくる。いつの間にか佐野さんお手製のかき氷を食べている船瀬くんが隣に来ていた。もちろん、彼にも袴田くんの姿は見えていない。校舎裏での一件しか会っていない。一年生だから仕方がないけど、入学前に亡くなった最強の不良の存在は知らないようだった。

「あー……気にしなくていいよ」
「いつも眉間に皺を寄せていますけど、ああやって天然っぽいところを見せる先輩はギャップ萌えでも狙っているんですかね?」

 僕は楽しいですけど。と、微笑みながらかき氷を頬張る。喋る度に見える舌が、ブルーハワイの青色で染まっていた。
「そういえば、岸谷くんといつの間に仲良くなったの?」
「あの事件が終わって、二、三日経ったぐらいですかね。改めて事情聴取を受けた後、先輩が『メシ行こうぜ』って言ってくれて、牛丼屋とファミレスをはしごしました」

 最初からファミレスに行けばよかったのでは、とは思うだけで口にはしない。

「そこで先輩が突然、『不良同士の喧嘩に巻き込んで悪かった』って謝ってきたんです。確かに僕は北峰の生徒というだけで巻き込まれましたけど、すべてが先輩のせいじゃない。僕にだって悪いところがあったんです。万引きを目撃したとき、脅されても屈しなければよかった。嘘をついてでも全力で逃げて交番に駆けこめばよかった。彼らの話に惑わされず、直接先輩を問いただせばよかったって、何度思ったことか」

 かき氷をすくう手が止まった。カップの側面に付いた水滴は、船瀬くんの手を伝って地面に落ちる。

「……だから、あの金髪の人に『一番仕返しをしたかった奴は誰だ』と言われた時、ようやく気づいたんです。僕は、後悔を言い訳にして逃げた自分が恥ずかしかった。万引き犯だと洗脳されかけた弱い自分が嫌いだった。……一番復讐したかった相手は岸谷先輩じゃない、自分自身だったんです」

 「一番仕返ししたい奴」――袴田くんが一度だけ、船瀬くんに吐き捨てるように放った言葉。
 あの時はただの暴言じゃないかって思っていたけど、彼にとって一番欲しかったものだった。喧嘩に巻き込む、巻き込まれるといった対照的な二人だけど、何か通じるものがあったのだろう。

「でも、分かっただけで何もできないんです。だってそうでしょう? 自分が嫌いだって分かって、どうしろっていうんです。好きになる努力なんて……」
「船瀬くんってさ、自己肯定力がすっごく低いよね」

 ギクッと肩を大きく動かして分かりやすく反応すると、船瀬くんが苦笑いでこちらを見る。
 そりゃあ、お前が言うなって話なんだろうけど。
「嫌いなら好きになればいいだなんて、疲れるだけじゃん。だったら自分がこれならできるって自負するものだけでいいと私は思う。突き詰めたらまた分からなくなるだろうし、自分の為なんだから急ぐ必要もない。でしょう?」
「……井浦先輩も、似たような事があったんですか?」
「……そうだね。あったよ。私の場合は大声を出しただけ」
「大声……? それだけで何が変わるって……」
「周りの目は変わらないけど、少なくとも自分の視界は変わったよ。だから船瀬くんも大丈夫」
「……先輩がそんなに自信を持って言い切れるなら、そうかもしれませんね」

 船瀬くんは少し考えてから力なく笑った。
 彼にはまだチャンスがある。購買室の行列を見て目を輝かせるほど、高校生活を楽しみにしていたのだ。入学初日から嫌な思いをしていても、まだ二年と半年も残っているのだから、今からでも巻き返せる。あとはタイミングだけだ。

「きっかけなんて何でもいいよ。朝早く起きるとか、ランニング始めるとか。授業の予習をするでも何でもいい。今ここで行動すれば、何か変わるかもしれないでしょう」
「そっか……そっか! じゃあ、明日の朝からランニングを始めてみます! 新聞配達の前に、十五分くらい走るとか……」
「……ちょっと待って、新聞配達ってなに?」

 聞き捨てならない単語に思わず彼を見る。右腕のギブスが取れた頃からカフェのアルバイトは許可されているが、掛け持ちは禁止だと病院から言われているのを、佐野さんを通じて聞いている。船瀬くんは慌てた様子で「ち、違うんです!」と続ける。

「ひ、人手不足で手伝いをしていただけです。近辺だけですよ? 怪我していることはおやっさんも知ってるし、止められてますから!」
「ふーん……」
「あ、今僕が約束を破ってバイトしてるって思ってません? カフェも配達も、責任者にちゃんと事情を説明したうえで働かせて貰ってますから。それにここ数年、なんでもデジタル化すればいいって方針になってきてますけど、やっぱり新聞って必要なんですよ。文字を読む習慣って大切ですから! 僕の親戚が住んでいる家の近所の新聞販売店で、しっかり働いてくれていた人が辞めてしまってから、本当に人手不足で――」
「わかった、わかったから。ちゃんと信じてるよ」
 働き者で最低限の常識を持ち合わせている彼のことだからと、事前に佐野さんが苦い顔して危惧していたが、まさか本当にやっているとは。溜息をつくほど呆れたが、その反面、彼らしいとも納得してしまう。

「ただいま戻りましたー……って、船瀬じゃん!」

 話をしているうちに、ステージに飛び入り参加していた野中くんと町内会の人が戻ってきた。満面の笑みを浮かべているところを見ると、随分満足したようだ。

「なんだ、こっち来てたのか。さっきのステージ観てた?」
「観てたよ、野中は漫才できるんだな」
「俺は元気と大声で乗り切っただけだからな! オオハシさんが助けてくれたんだ」
「いやいや、即興にネタを作ったにしては上々の出来だったよ。野中くんは器用だね」
「へへっ! 今度は船瀬も一緒に出ようぜ!」
「え……僕も!?」
「おう! 案外ノリで行けるって。強制はしないけど、やってみるチャレンジも必要だろ?」
「そうだけど……あ、じゃあ僕は壁の花をやるよ!」
「いやいや、そこは一緒にやろうぜ」

 クラスメイトが来たからか、いつも敬語交じりに話す船瀬くんが緊張しながらも砕けた口調で話す。学年も教室も離れているから、この光景がとても新鮮だった。

「キッシー、早く食べないとせっかく作ったかき氷が溶けちゃうよ?」
「食べる、食べるから!」
『岸谷、俺がイチゴ味食べれないの知ってて選んだのか? せめてコーラにしろよ』
「知るか! しかもコーラかけたかき氷って、ただのコーラじゃねぇか! ってこら、食べんな!」

 それとは反対に、まだ袴田くんと岸谷くんは言い合っていたらしい。面白がっている袴田くんに向かって怒鳴り散らす。なんとなく微笑ましい光景は、私以外にはただの一人漫才にしか見えない。カウンター越しから佐野さんがもの珍しそうに眺めていた。

「岸谷先輩って、あんな人だっけ? もっと怖い人だと思ってたよ」
「さすが学校一不憫な人……」

 ボソッと聴こえた後輩の言葉に、私は岸谷くんにいたたまれないになる。まさか私の発言でここまで後輩に印象付けてしまうとは思わなかった。
 そろそろ袴田くんの絡みから解放してあげないと可哀想だと思い、岸谷くんに声をかける。

「と、ところで! 岸谷くん、巡回の方はどう?」
「ん? ……ああ、今のところ問題はないな。ポイ捨てが目立つくらいだ。ただ……」
「ただ?」

 ようやく取り返したかき氷を食べながら、岸谷くんは急に神妙な顔つきになる。

「どうも静かすぎて気味が悪い。去年の今頃なら、とっくに南雲と北峰で殴り合いが始まってたんだ。あの時は袴田がいたからすぐ片付いたけど、今年は喧嘩の気配すら感じられない。駅近辺で南雲の生徒がうろついている情報が掴んでいるが、襲ってくる様子はねぇな」
「その……袴田って人を警戒しているからではないんですか?」
「ちょっ、バカ!」

 船瀬くんの問いに、すぐ野中くんが彼の口を抑えたが、岸谷くんは苦い顔をした。