夕焼けと共に、年に一度の夏祭りが始まった。
 屋台から漂う焼きそばやお好み焼き、焼き鳥の匂いにつられて、近所に住む人が次々とグラウンドに入ってきた。特に今年は家族連れが多いようで、小さな浴衣を着飾った子供たちが楽しそうに両親の手を引いて急かしている。

「おねーちゃん、かき氷くださいっ!」
「ぼく、めろんがいい!」
「いちごちょーだい!」
「はいはい、順番守って並ぼうねー。焦らなくても沢山あるから、大丈夫だよ!」

 タピオカの入ったジュースやカラフルな綿菓子の屋台がある中でも、定番のかき氷は列ができるほど好評だった。佐野さんが注文を聞いて、野中くんと町内会の人がひたすら氷を削り、シロップをかけて私がお客さんに手渡しする。氷削り係――という名の調理担当の二人が、これがまたテンポがよく氷を削り、並んだ列をあっという間に捌いてしまった。さらに屋台の前で漫才をして呼び込めば、次々に人が集まってくる。

「へぇ、北峰の子がボランティアなんだ。毎年そうなの?」
「そうなんですよー! 文化祭でも同じ屋台を出すところがあるので、ぜひ寄っていってください。全員が同じTシャツを着ているのが目印ですっ!」

 初めてきたであろうお客さんに、すかさず佐野さんが文化祭の宣伝を入れてくる。生徒は皆、学校規定のスラックス、スカート姿ではあるが、この日のために生徒会が用意してくれたオリジナルTシャツを着て参加している。
 町内会の人がボランティアの生徒と見分けがつくようにしたいとのことで作られたらしいが、これはこれで特別間があって、着ているだけでわくわくした。 
 第二のかき氷ピークが過ぎると、この日のために設置されたセンターステージで、催し物が始まった。小学生の金管バンドから始まって、中学生が文化祭のために練習しているダンス。当初に予定していたタイムスケジュール通りに進んでいく。

「ふーっ! ようやくゆっくり出来そうね。井浦ちゃん、疲れてない?」
「私は平気。……ってあれ、野中くんたちは……?」

 お客さんが引いてやっと周りが見えるようになると、先程まで懸命に氷を削っていた野中くんと町内会の人がいつの間にか消えていた。佐野さんが「あの二人ならあっち」と言いながら、センターステージを指す。確かタイムスケジュール上だと、有志による特技発表だったような。不思議に思いながら目を向けると、「どうもーっ!」と芸人よろしく二人がステージに駆け上っていく。

「飛び入り参加オーケーだから、行ってくるって」

 マイクが入っていないのか、はたまた早口過ぎて聞き取れないのか。即興とは思えないほどテンポの良いべしゃりが始まると、観客席に座ってビールを片手に見ているおじさん達が、腹を抱えて笑っていた。アルコールが程よくまわっているのか、真っ赤な顔をしながらも楽しそうだ。