さも平然と彼はあっけらかんと言い放った途端、私は持っていたパイプ椅子を地面に落としてしまった。
 この人って本当に袴田くんだよね?
 魂入れ替わってたりとかしてないよね?
 彼の素性を疑う反面、急に言われたことによって不意にもときめきかけた自分がいる。悔しい。

「井浦先輩ぃぃい! 野中が、野中が助けに来ましたあああ!」

 パイプ椅子が落ちた音を聞きつけたのか、賑やかな声が聞こえてくる。大騒ぎで戻ってきた野中くんが息を整えながら、私が落としたパイプ椅子を取り上げると、またグラウンドに向かって走っていく。

『確かに、お前の周りは個性が濃すぎて感覚が狂いそうだな。ウケる』
「……それ、自分も入ってること分かってる?」
『そりゃあいい。上等上等』

 くはは、と呑気に笑って、袴田くんは先を歩く。
 その後ろ姿を見て、私はふと漫画や小説みたいなことなら、すでに目の前で起こっているじゃないかと納得してしまった。
 私にしてみれば、この現状が偶然であり奇跡だと思う。本来幽霊が見えるといった霊体質の持ち主でない私が、たまたま死んだ彼と出会い、厄介事に巻き込まれて偶然いろんな人と関わった。これは必然と断言するより、偶然が重なった、の遠まわしで表現するのが妥当だろう。

「井浦ちゃーん! 動線を確認するから来てーっ!」

 グラウンドから聞こえてくる佐野さんの声に慌てて走り出す。袴田くんの隣を追い抜いた時、ひんやりと冷たい空気が頬を撫でた。