交番に移動して先程の様子を説明し終えると、思っていたより呆気なく私たちは解放された。傘泥棒の時でも堂々としていた佐野さんも、南雲の不良には恐怖が勝って、何も言ってやれなかったと悔しそうに項垂れていた。

「井浦ちゃんはすごいよ。淳太を守って前に出てたし」
「あはは……目は付けられたかもしれないけど」
「でもあの人、良いタイミングだったよね」
「しかもなかなかのイケメンだった! ……そういえば井浦ちゃん、何か貰ってなかった?」
「そういえば……えっと」

 見知らぬ彼から――半ば強引に――渡された防犯ブザーを皆に見せると、佐野さんが途端に眉をひそめた。

「これってタカミドーじゃない?」
「たか……え? なに?」
「知らないの? (たか)()(どう)コーポレーション。防犯はもちろん、防災グッズを売り出してる企業だよ。ここに書いてあるでしょ?」

 ブザーをひっくり返して、電池が入っているカバーの溝近くに“Takamido”と刻まれている。こんな小さなところに書かれても気づかないって。

「確か……本社って、この近くじゃなかった? 高卒でも社員募集してたから、北峰から何人か面接を受けに行ってるよ」
「じゃあさっきの人は社員さんだったんでしょうか?」
「かなぁ……?」

 見た目は同い年くらいだったから、近くの高校生にも見えなくもない。高御堂コーポレーションが高卒での社員募集しているのであれば、本社に勤めている可能性もあるだろう。

「井浦先輩? 大丈夫ですか?」

 黙ったままの私を不思議に思ったのか、船瀬くんが顔を覗き込むようにして聞いてくる。

「もしかして、さっきの人に何か言われました?」
「……ううん。なんでもない」

 彼らと鉢合わせしたわりには、気持ちが悪いほどいいタイミングだった――とは、船瀬くんの前では言えなかった。