「そういえば井浦先輩、岸谷先輩のこと『学校一不憫な人』って言ってましたね」
「うわっ!?」

 突然、男子の声が後ろから聞こえて驚くと、カフェの制服を着た船瀬くんがアイスティーを持って立っていた。学校近くのこのカフェは、船瀬くんのアルバイト先だったことをすっかり忘れていた。

「淳太、さすがにそれは驚くって」
「すみません、声をかけるタイミングがわからなくてつい。アイスティー、どうぞ」
「あ、ありがとう……って、ごめん! 私まだ注文を……」
「いいんです。サービスさせてください。あと今度発売されるクッキーの試食もどうぞ。『いつも来てくれてありがとう』って、店長が言ってました」
「ええーっ! 店長さんありがとう!」

 佐野さんが席からカウンターへ向かって言うと、店長らしき人は手を軽く上げた。そういえば船瀬くんと仲良くなりたくて、一時期通いつめていたんだっけ。

「由香って誰とでも仲良くなるよね」
「おかげで顔が広いよー。商店街で買い物するとおまけでコロッケとか貰うもん!」
「あそこのコロッケ、美味しいですよね。毎回揚げたてを包んでくれますし」
「船瀬くん、仕事中なんじゃ……」
「終わらせてきました。あの、ご迷惑でなければ僕も入って良いですか?」
「良いよ良いよ! 早く着替えておいで」

 仕事を終えたばかりの船瀬くんも参戦して、後輩の恋愛事情が気になると言い出した佐野さんに乗っかって二時間ばかり話し込んだ。
 船瀬くんが茹でたタコのように顔が真っ赤になる頃には、店内に夕日が差し掛かっていた。さすがに長居しすぎたのでお開きになり、駅まで一緒に帰ることになった。

「はー! 楽しかった! たまにはお喋りも楽しいね」
「由香はいつもでしょーが。船瀬は? 集中して聞いちゃったけど大丈夫?」
「はい……あ、でも話さないでくださいね?」
「もちろん、初恋が保育園の先生ってことは誰にも言わないよ」
「言ってる! 今言ってますから! 井浦先輩は黙っててくれますよね、ね!?」
「言わないけど……可愛いくていいんじゃないかな」

 フォローしたつもりが、なぜか大きく肩を落とされてしまった。こういうときってカッコイイって言った方がいいんだっけ?

「井浦さんは?」