「佐野さんは難しい大学だったよね。美玖ちゃんは……?」
「私は県外の大学。そこで軽音楽のサークルに入ってる先輩と仲良くてさ、大学入ったら一緒にバンドするって決めてんの!」
「それが初恋の人だから羨ましいよねぇー美玖チャン!」
「ちょっ! そ、そんなんじゃないし!?」

 ここぞとばかり悪戯な笑みを浮かべて佐野さんが茶化すと、美玖ちゃんの頬が次第に赤く染まっていく。恋する乙女は可愛いのだ。

「それよりずっと気になってたんだけど、井浦さんって彼氏いるの?」
「……へ?」
「よく岸谷と話してるし、男友達の方が多いのかなって思って」
「確かに……でもキッシーと付き合ってるようには見えないよね」

 美玖ちゃんの質問に、なぜか佐野さんが頷く。何に納得しているのかわからないけど。

「そういえば昨年くらいに噂になってなかった? ファンクラブの先輩達が騒いでた気がする」
「え? そうなの?」 

 とても懐かしい話を掘り返して聞いてくる二人に、私は苦い笑みを浮かべた。
 例のファンクラブの先輩たちは謝罪の言葉一つもなく卒業していった。一度だけ校内で目が合ったことがあったけど、声をかけることもかけられることもせず、それ以降は会っていない。

「他校の人に絡まれたときに助けてもらったくらいだよ。先輩たちも言い返しちゃったけど、誤解は解いたし……」
「言い返したって……先輩相手に? 口答えしたらすぐ手を上げるって、下級生の中でも有名だったんだよ」
「そう……だったの?」
「知らなかった?」
「うん。岸谷くんのことも絡まれたときに初めて知ったくらいで……」

 あの時は袴田くんのことしか考えてなかった――なんて口が避けても言えるわけがない!