内心ホッとしていると、隣で『忘れるなよ、コイツは頭は悪くないが、信じる奴にはとことん付いていくからな』と不安を仰られる。

「……船瀬くんのことだから多分大丈夫だと思うんだけど、無茶はしないでね」
「はい。ありがとうございます。そうだ、あの時の金髪の人にお礼がしたいんですけど、どこのクラスの人か知りませんか?」
「え!? えっと……」
「あれ、淳太じゃーん!」
「うわっ!? ちょ、佐野先輩!」

 佐野さんに絡まれた船瀬くんが顔を背けたのを見計らって、にやついた笑みを浮かべる袴田くんに小声で言う。

「……お礼がしたいってさ、金髪の人」
『阿呆か。俺がぶっ飛ばしたのは一部だ。南雲の奴らが襲ってくる可能性は充分ある。安心してたら足をすくわれるぞ』

 袴田くんの言う通り、岸谷くんが彼に付きっきりでいたら夏祭りの巡回に支障が出てしまうかもしれない。何より、北峰にとってこの状況は守りに入った状況だ。根本的な解決になっていない。
 ……あ、そうだ。

「袴田くんも巡回隊に入ったら?」
『は?』
「だってやることないでしょ? 岸谷くんと連携を取って見回りすれば、喧嘩も未然に防げるかもしれないし」
『……くはは。お前、俺がとっくに死んでるって分かってて言ってんの?』

 ウケるんだけど、と呆れた顔をされる。もちろん彼がすでに亡くなっていて、基本私以外の人物に姿が見えないこともわかった上での話だ。一度船瀬くんを尾行したことがある彼ならできるだろう。
 あの時私はいなかったのに、岸谷くんと共有できていたのだから、きっと大丈夫だ。

「でもせっかくの夏祭りなんだから、一緒にいることくらい、いいでしょう?」

 お盆――つまり、ご先祖様が家に帰ってくる日でもあるのだから、幽霊(仮)が一人混ざっていても問題はない。もしかしたら彼も家に一度帰るかもしれないし。
 私の突飛な提案に袴田くんは『……まぁ、それもいいか』とすぐニヤリと笑みを浮かべた。

『早く夏祭りになんねぇかなぁ。そしたら井浦も学校に来るんだろ?』
「そうだけど……袴田くん、学校が好きなんだね」

 生前、全く会話をしたことがなかった頃、喧嘩をするわりにしっかり授業を受けている姿を見ていて、実は真面目なのではと疑ったことがある。もしかしたら、学校でクラスメイトや不良仲間と会うことで寂しさを埋めているのかもしれない。

『俺には、学校しかなかったからな』

 そう呟いた彼の横顔は、どこか寂しそうに見えた。