それにしても意外だった。怪我人とわかっていながら、外部と接触する機会が多い夏祭りに船瀬くんを参加させるなんて、岸谷くんがするとは思えなかったのだ。よほど人が足りなかったのだろうか。

『だろうな。半分は監視するとか?』

 いつからいたのか、私のすぐ近くの壁に寄り掛かっていた袴田くんが言う。相変わらず金髪が照明に反射して眩しい。

「……誰の?」
『船瀬に決まってんじゃん。スパイとして送り込んでいた駒がバレたのに、南雲の奴らが何もしないわけがない』
「でも情報は何も持っていないって、船瀬くんは言ってたよ」
『本人はな。些細なことでも知られると困るモンだってあるだろ。……ま、岸谷はそれを見越して呼び込んだのかもな』
「……船瀬くんを囮に使うとか、そういう汚い話?」
『お前、いつになく物騒だな。ちげぇよ。近くに置いたほうが守れるって話』

 どういう意味?
 眉をひそめると、袴田くんは私の持っていたプリントの、校舎側に設置されたテントの枠を指さした。

 〇夏祭り本部・巡回隊待機場所:岸谷、…………船瀬

「……どうしよう、袴田くんのせいで完全に監視にしか見えなくなっちゃった」
『くはは。だろ?』
「でも夏祭りに参加させるより、家にいた方が安全なのでは……?」
『んなことしたら「暇なんでバイト入れます」って言い出すに決まってんだろ』
「あー……確かに」

 船瀬くんは入学当初からアルバイトと学業を両立していた。不良からお金を巻き取られていたこともあって、一時掛け持ちしてまで働き、右腕が折れていても病院に行かず、独学で腕を固定して生活していたのだ。
 そんな彼が、夏休みという稼ぎ時にシフトを入れない訳がない。しかし彼は今、病院から言い渡された絶対安静期間の真っ只中だ。

「あんな目に遭ったんだから、さすがに大人しく家にいるって!」
『俺が知るかよ。本人に言え』
「本人……?」
「井浦先輩!」
 後ろから呼ばれて振り向くと、爽やかな笑顔の船瀬くんがそこにいた。以前のぎこちない空気はどこにもなく、がっちり固定されていたギブスも外れて以前よりもすっきりしている。

「先輩も参加するんですね。僕、買いに行きますから!」
「あ、ありがとう……でも船瀬くんは大丈夫なの? その……怪我とか、いろいろ」
「迷子の相手や忘れ物を管理するだけですし。……それに岸谷先輩も一緒ですから」

 船瀬くんは屈託のない笑みを浮かべながらも、周りを気にして小声で教えてくれた。私が思っていたよりも冷静なのかもしれない。