「町内会の人が入ってくれるから、他のブースよりかは気楽にできるよ。氷削ってシロップかけるだけだし。それに井浦ちゃんも、クラスの人以外となら話せるでしょ?」
「ボランティアってランダムで振り分けられるよね? もしかして佐野さんが決めてくれたの?」
「ううん。ただ『井浦ちゃんと一緒じゃないとやらないよ』って、キッシーに言ったら手をまわしてくれたの。持つべきは風紀委員ね!」

 小声ながらも爽やかな笑顔で脅した彼女を見て、思わず岸谷くんに同情した。申し訳ないと思う反面、佐野さんが私の事を考えてくれた事が嬉しかった。

「でもキッシーも大変だよね。今年も町内会のボスの(いわ)()っていうオジサンが仕切るんだって」

 岩井さんの噂は聞いたことがある。町内会の最年長で、喧嘩ばかりする若者をあまり快く思っていない。なにかあれば「だから最近の若い奴らは……」と小言を延々と続けることで有名だ。特に生徒と町内会の間に挟まれる生徒会は、ストレスで胃痛を起こしている人もいるようで、まともに取り合っているのは岸谷くんだけだった。
 そっと生徒会の役員と話している岸谷くんを見るも、特に変わった様子はない。今のところ問題はなさそうだ。
 生徒会の説明が終わって解散になり、視聴覚室からぞろぞろと出ていく。その人混みを逆らって、見覚えのある一年の男子生徒がこちらにやってきた。

「かき氷ブース担当になりました、野中です! よろしくお願いします」
「確か、船瀬くんと同じクラスの……」
「はい。この間は大変お世話になりました!」

 あの日、心配して探しに来た野中くんは船瀬くんと一緒にいるようになった。元々趣味や好きなアーティストが同じだったようで、彼の方から話しかけたらしい。当の船瀬くんは、南雲の不良に暴行された右腕は骨折、医者から最低三ヵ月は絶対安静だと言い渡されていた。そんな彼がよくボランティアに参加すると知った時は思わず聞き返してしまった。

「俺もびっくりしたんですよ。その場に居たんですけど、岸谷先輩から声かけてくれたんです。気分転換にどうだって」
「へぇ……キッシー、後輩想いだね!」

 もうすっかり定着してしまった佐野さん独特のニックネームに、野中くんが首を傾げる。