今になって思えば、袴田くんの席を卒業まで残すと言い出したのは先生だった。
 初めて担任を持ったクラスであり、全員を無事に卒業させたいという先生の思いに、クラスメイト全員が賛同した。
 その思いは、この教室にいる誰よりも重く受け止めていたのは袴田くんだった。
 幽霊(仮)として存在していても、彼がこのクラスで授業を受けている間は、本当に生きているのかと勘違いしてしまうくらい、とても楽しそうに見える。私が休み中に学校に来るか聞いて、途端に声を上げたのは、寂しかったからなのかもしれない。

 ホームルームが終わると同時に賑やかな声が飛び交う教室で、しきりに『夏祭りも来んの? 何の屋台やんの!?』と聞いてくる彼が、尻尾を振っている大型犬に見えたのは、ここだけの話だ。