「文化祭で出し物がないクラスからかき集めてこいって言われてさ、井浦ちゃんどうかなって」
「はぁ……」

 確かに私がいるクラスは文化部に所属している生徒が多く、夏休みが明けた後に控えている文化祭が最後の活動になる。さらに夏の大会で引退した運動部も後輩の手伝いだと言って、クラスで行う出し物には一切関わろうとはしなかった。
 話し合った末、今まで授業で作ってきた創作物を壁一面に飾って、休憩スペースを作るということで一致した。特にその場にいる必要もないため、生徒は部活の出し物や自由行動に専念できる。
 元から部活に入っていない生徒にとっては関係のない話だ。

「佐野さんも大変だね」
「そうなの! だからお願い、私と一緒にかき氷売って!」

 話を聞く限り、夏祭りのボランティアの仕事は担当場所によって異なるが、食材は生徒会が発注済み、夏祭り前日にテントと機材を揃える程度で、特に大きな作業はない。それに佐野さんから頼みを断る理由もない。

「い、いいよ。……私で良ければ、だけど」
「大歓迎! ありがとう、井浦ちゃんのおかげでノルマの十人達成!」

 佐野さんがホッと胸を撫で下ろす。生徒会のノルマが厳しすぎる!

「やっぱり部活のほうに行っちゃう人が多いのかな?」
「そうね。でもしょうがないよ。特に()()とか」

 美玖とは、いつも佐野さんと一緒にいる友達の一人だ。名字が(やま)()という、周りによくいる名字であることから「名前で呼んで。さん付けはダメ!」と逃げ道を塞がれて以来、私は美玖ちゃんと呼んでいる。軽音楽部でベースを担当していて、一度だけミニライブを見せてもらったことがある。黒髪のストレートボブに猫目のきりっとしたクールな印象を持つが、演奏後に見せた嬉しそうに笑った表情が一番輝いていた。確か軽音楽部も夏祭りに催し物としてステージに立つと聞いた。

「そういえば美玖ね、今年の文化祭のミスコンに出るよ!」