秋晴れの良き日に、隣の席の(はかま)()くんが亡くなった。

 校則違反の金髪と黒の二連ピアスが目印で、他校の生徒と喧嘩が始まれば必ず最前線にいる、学校一の不良――袴田(れい)()
 最強と謳われた彼は今朝がた、交差点に差し掛かった大型トラックの前に自ら飛び出したという。
 決してトラックが信号を無視したわけではなく、歩行者用の信号機に不具合があった訳でもない。 
 現時点でなぜ彼が飛び出したのかはわかっておらず、彼の通う高校の生徒や教師、近所に住む住民に話を聞いても、自殺をほのめかす様子はなかったという。警察は事故と事件の両面から捜査を進めているが、今のところ進展はない。

 学校側が生徒へ正式に通達したのは、事故が遭った翌日のことだった。
 生前は喧嘩の耐えなかった彼に恨みを持つ人物が葬儀中に乱入してくることを懸念し、遺族からの要望でお通夜や告別式への参列を控えてほしいと言われ、校長と担任が頭を下げ、親交のあった生徒三名を選出し、告別式にのみ参列させてもらうことになった。
 つまり、多くの生徒が彼の最期に立ち会うことなく、一方的に別れを告げられる形になってしまったのだ。

 告別式があったその日から、いつも座っていた教室の一番後ろにある席には、花瓶に活けられた百合の花が置かれ、多くの人が彼の早すぎる死を惜しんだ。

「仲間思いの良い奴だった」
「不良に絡まれて助けてもらったことがある。まだお礼も言えてなかったのに……!」

 多くの人が悲しむ姿を、私は一歩下がって冷めた目で見ていた。
 同じクラスで隣の席だったとはいえ、所詮は赤の他人。身近にいながらも有名人だった彼の存在を、私はあまり気にしていなかったのかもしれない。
 そんな私でも、彼の人柄に惹かれた人が大勢いるのだと知って、何とも惜しい人を亡くしたのだと知った。こんなにも悲しまれ、悔やまれた彼はきっと幸せ者だろう。どうか安らかに眠ってほしいと、心から願う。

 ……でもね、袴田くん。一つだけ教えてくれないかな。

 あなたがしたその選択は、誰だったら止められたの?