ダイアモンド・ダスト

 屋上に吹き荒れていた風がやんだ。

「そうだ、これ、琴乃に返すよ」

 私は教室から持ってきていたドレスを差し出す。

「でも……」

「ううん、私は琴乃にやってほしい。私は、主役じゃなくても学校祭楽しめるよ。琴乃と一緒なら」

 少し戸惑った後、琴乃は頷いた。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。現実世界ではお姫様役とられちゃったし」

「教室戻ろうか」

 並んでドアの方へ歩き出した時、目指していたドアが一気に開け放たれた。

「なーんだ。丸く収まってんじゃ~ん!遅いから大乱闘にでもなってるのかと思ったのになー。つまんないのー。こじれてくれればオレが桜ちゃんに付け込めたのにー」

 不満そうに、でも、ほっとしたような顔をした西宮が屋上のドアから顔をのぞかせていた。

「おい! 余計なことはするなって!」

 たくましい腕が西宮の肩に伸びて、ひょろりとした体をドアの向こうに引きずり込む。

「心配だから様子見に行こうって言いだしたのは岡本だろー」

 文句を言いながらドアにへばりつく西宮があんまりにも滑稽だから、私と琴乃は顔を見合わせて笑ってしまった。

「よくわからないけど、仲直りできたみたいだな」

 そんな私たちの様子を見て、岡本君が頬を弛ませる。

 
 ドーン、後ろで大きな音がした。

 まだ太陽が支配している空に、わずかな煌めきがめぐる。

 思い出した。前夜祭の打ち上げ花火のデモンストレーションがあるんだった。

「あーっ、今のハート型だった!」

 琴乃が指さして元気よく手すりの方へ向かっていく。

「こんな明るくちゃみえないだろ」

 岡本君が両手をポケットにツッコミながらのろのろと後を追いかける。

「どれどれ?」

 右手を頭にかざしながら私も動き出す。そんな私を

「あー、ハートマーク割れた!割れた!」

とはしゃぐ西宮が追い越していく。

 相変わらず、バカなやつだ。

 でも、

「西宮、ありがとう」

 追い越される瞬間に私はそっと言った。

「んー、なんか言ったー?」

 照れ隠しのせいなのか、本当に聞えていないのか、とぼけた返事が返って来ただけだった。

 西宮の隣に琴乃が、少し開けて岡本君が手すりに手をかけて運動場の上に広がる大空を眺めていた。

「綺麗だね」

 私は岡本君と琴乃の間のわずかな隙間に体を入れ込む。

「まあまあだな」

「うん、それなりに、綺麗」

「昼なのに花火とか馬鹿じゃないのー」

 三人の声が真横から聞こえる。

「ううん、綺麗だよ。すっごくキラキラしてる」

 私は、花火が落とす影に彩られて輝く運動場を見ながら言った。