ダイアモンド・ダスト

「立川、あんまりそいつの悪ふざけに乗るなよ。ろくな奴じゃないから」

 岡本君が私に向って言う。

「は?岡本に言われる筋合いはないんですけどー」

 西宮が岡本君に食ってかかる。

「ちょっと……」

 私は二人を止めようとしたが、焼け石に水だったようだ。

「いい加減にしろよ、西宮。立川はお前みたいな適当なのが、おふざけで弄んでいい奴じゃないんだよ」

「あれ、もしかしてオレがキスしてるの見て嫉妬しちゃった?捨てた女でもとられるのは嫌なんだ」

 岡本君は西宮の言葉に怒りを滲ませたが、何も言い返さなかった。

「……行くぞ、立川」

 岡本君が私の手を引いて歩きだす。その手を乱暴に引き離そうとわしづかみにする西宮。

「じゃあ、オレが本気ならいいの?」

「は?」

「桜ちゃんとの恋愛だけは真剣にするって言ったら、岡本は素直に引き下がってくれんの?」

 岡本君が強く唇をかみしめた。

「おい、何だ。喧嘩か?」

 階段の方から図太い声が聞こえた。体育科の先生だ。

「また西宮か。ちょっと来い!」

 先生は私と岡本君に何の状況説明も求めず、西宮の胸倉を掴んでずるずる引きずっていった。

 西宮のことだ。普段の素行の悪さは学校内でも有名。相当悪い印象を持たれているのだろう。

 取り残された岡本君は私を見た後に一言、

「大丈夫か?」

 私が頷くと、安心したように頬を弛ませた。

「俺は、西宮とはあんまり関わらない方がいいと思う」

 それだけ言うと、岡本君は足早に階段の向こうに消えていった。