キーンコーンカーンコーン
「よっしゃー!テスト終わったー!」
金曜四時間目。全てのテストの終了を告げるチャイムの音が鳴り響くと、途端に学校は賑やかになった。
昼休みをはさんですぐ、学校祭作業解禁集会が開かれる。
「レディースアンドジェントルメン、お待たせしました!ただいまより、学校祭準備期間の開幕だー!」
体育館の壇上に立った学校祭作業解禁集会の司会者がマイクに向かって陽気に叫ぶ。
全校生徒の「イエーイ!」という声が怒号のように鳴り響く。
去年の集会では琴乃と一緒にチームカラーのタオルを振り回しながら叫んでいたけど、今回は騒いでいるみんなを一人で傍観していた。
「それではーっ、みんな大好き学校祭実行委員長、高杉君のお話しで―す!」
「たーかっすぎ!、たーかっすぎ!」
テンションの上がりきった男子たちが委員長登場に合わせてコールする。
「みなさん、待ちに待った学校祭シーズンがやってきました。クラスの仲間と絆を深め、この一大行事を成功させましょう!」
委員長も丁寧な言葉遣いを選んではいるが、その口調は爛々としたものだった。
集会が終わると部活動のない生徒は早速作業場に集まって、各クラスで作業が進められる。
私も三年七組の作業場に集まっていた。
「まず、脚本・監督の室井光咲さんと演者のチームは台本の作成に取り掛かってください。と、言ってもテスト期間前に結木さんと岡本君が大体のものを考えてくれたので、簡単な確認だけで済むと思います。今日は岡本君が部活動で不参加なので演技練習はなしにします。終わったら、大道具チームに合流してください」
岡本君が不在なので今回は女子の方のクラス委員の河野さんが仕切っている。
「次に、大道具チーム。今日からの三日間は馬車とお城のシャンデリアを作ってください。ペンキと段ボールは作業場の左隅に置いてあるものを使ってください。どちらも細かい装飾があるので丁寧にやるように。BGMや照明などの裏方チームも加わってください」
私は大道具チームのみんなと一緒に作業場に移動した。
「次に小道具チームは……」
後ろの方で割り振りを続けている河野さんの声が小さくなっていく。
「一緒にペンキ塗りにいこー」
「えー、やだー。ペンキ汚れるじゃん。段ボールの装飾にしようよー」
友人同士で仲良く並んで作業を始める。
「私もそれやろうかな」
ぼーっと突っ立ってるわけにもいかないので声をかけたが、女子たちは顔を引きつらせて
「あ……、うん」
と答えるとそそくさと別の作業工程に移った。
私と一緒に居たくないんだ。
私は彼女たちがほったらかしにしていったハサミやらテープやらを拾うと貼りかけの折り紙を丁寧に段ボールに張りつけ始めた。
「すげー!めっちゃ回る!」
「おい、これぶら下げようぜ!きっとよく乾くぜ」
「やめろ、俺の靴下だろ。返せ!」
少し遠くではシャンデリアの骨組みを作っている男子たちが悪ふざけをしていた。
友達同士でわいわいと楽しそうに作業するみんなの中で、私は独りぼっちだった。
手が空いた時には「手伝うよ」といって作業中の集団に声をかけてみたりもしたのだが、みんな気まずそうに一旦私を受け入れ、しばらく経つとその場を離れて行ってしまう。
遠回しについてこないでね、という意味を含めた「あと、よろしくね」というメッセージを残して。
寂しかった。悔しかった。情けなかった。
作業に没頭して騙し騙しに気を紛らわせながら孤独に耐えた。
「やっほー、助っ人にきたよー」
「え、早っ!もう台本終わったの!」
俯いて作業をしていたら光咲や彩夏や笑美の声が聞こえてきた。顔をあげてみるともちろん、琴乃も一緒だった。
「うちの琴乃ちゃんは優秀なので」
「光咲のもんじゃないでしょ」
笑いが起こる。
「テスト前に岡本と二人でレンタルショップ回ったんだってー」
「えーっ、もうラブラブじゃん」
女子たちの間から黄色い声が聞こえる。
「しっ。ちょっと、桜に聞こえるでしょ。また、お門違いな嫉妬されたら困るよ。あっち行こ」
彩夏が私のことをチラッと横目で見てから一緒に話していた女子に目配せした。「しっ」と言っている割には明らかに私に聞こえる声量で話している。
私の周りはまた、少し静かになった。
泣くものか。
悔しい思いをぐっと拳で握り潰して、気を逸らせようと作業場の床を凝視する。
私は誰かが使いっぱなしにしているペンキを発見した。
このまま放っておくと筆先が固まってしまって使い物にならなくなる。洗っておこう。
作業場を出て、ペンキ類の洗い場に指定された水道へと向かった。
水道は少し混んでいて、ちょっとした行列が出来ていた。
待ち時間に周りの様子をうかがっていたら、琴乃たちがベンチで仲良くお菓子を食べているのが目に入った。
私がいつも腰掛けているベンチだ。
水道は運動場に近かった。左少し遠くを見れば学校祭とは関係なしに走り回っている運動部員たちがいる。
私は目を左右にせわしなく動かしてからため息をつく。
運動場の主役はこんな遠くからでは見つからなかった。
順番が来たので、筆にこびりついているしつこい汚れを丁寧に落としてすぐに作業場に戻る。
俯いて筆を洗っていた時、少し涙がこぼれた。
「よっしゃー!テスト終わったー!」
金曜四時間目。全てのテストの終了を告げるチャイムの音が鳴り響くと、途端に学校は賑やかになった。
昼休みをはさんですぐ、学校祭作業解禁集会が開かれる。
「レディースアンドジェントルメン、お待たせしました!ただいまより、学校祭準備期間の開幕だー!」
体育館の壇上に立った学校祭作業解禁集会の司会者がマイクに向かって陽気に叫ぶ。
全校生徒の「イエーイ!」という声が怒号のように鳴り響く。
去年の集会では琴乃と一緒にチームカラーのタオルを振り回しながら叫んでいたけど、今回は騒いでいるみんなを一人で傍観していた。
「それではーっ、みんな大好き学校祭実行委員長、高杉君のお話しで―す!」
「たーかっすぎ!、たーかっすぎ!」
テンションの上がりきった男子たちが委員長登場に合わせてコールする。
「みなさん、待ちに待った学校祭シーズンがやってきました。クラスの仲間と絆を深め、この一大行事を成功させましょう!」
委員長も丁寧な言葉遣いを選んではいるが、その口調は爛々としたものだった。
集会が終わると部活動のない生徒は早速作業場に集まって、各クラスで作業が進められる。
私も三年七組の作業場に集まっていた。
「まず、脚本・監督の室井光咲さんと演者のチームは台本の作成に取り掛かってください。と、言ってもテスト期間前に結木さんと岡本君が大体のものを考えてくれたので、簡単な確認だけで済むと思います。今日は岡本君が部活動で不参加なので演技練習はなしにします。終わったら、大道具チームに合流してください」
岡本君が不在なので今回は女子の方のクラス委員の河野さんが仕切っている。
「次に、大道具チーム。今日からの三日間は馬車とお城のシャンデリアを作ってください。ペンキと段ボールは作業場の左隅に置いてあるものを使ってください。どちらも細かい装飾があるので丁寧にやるように。BGMや照明などの裏方チームも加わってください」
私は大道具チームのみんなと一緒に作業場に移動した。
「次に小道具チームは……」
後ろの方で割り振りを続けている河野さんの声が小さくなっていく。
「一緒にペンキ塗りにいこー」
「えー、やだー。ペンキ汚れるじゃん。段ボールの装飾にしようよー」
友人同士で仲良く並んで作業を始める。
「私もそれやろうかな」
ぼーっと突っ立ってるわけにもいかないので声をかけたが、女子たちは顔を引きつらせて
「あ……、うん」
と答えるとそそくさと別の作業工程に移った。
私と一緒に居たくないんだ。
私は彼女たちがほったらかしにしていったハサミやらテープやらを拾うと貼りかけの折り紙を丁寧に段ボールに張りつけ始めた。
「すげー!めっちゃ回る!」
「おい、これぶら下げようぜ!きっとよく乾くぜ」
「やめろ、俺の靴下だろ。返せ!」
少し遠くではシャンデリアの骨組みを作っている男子たちが悪ふざけをしていた。
友達同士でわいわいと楽しそうに作業するみんなの中で、私は独りぼっちだった。
手が空いた時には「手伝うよ」といって作業中の集団に声をかけてみたりもしたのだが、みんな気まずそうに一旦私を受け入れ、しばらく経つとその場を離れて行ってしまう。
遠回しについてこないでね、という意味を含めた「あと、よろしくね」というメッセージを残して。
寂しかった。悔しかった。情けなかった。
作業に没頭して騙し騙しに気を紛らわせながら孤独に耐えた。
「やっほー、助っ人にきたよー」
「え、早っ!もう台本終わったの!」
俯いて作業をしていたら光咲や彩夏や笑美の声が聞こえてきた。顔をあげてみるともちろん、琴乃も一緒だった。
「うちの琴乃ちゃんは優秀なので」
「光咲のもんじゃないでしょ」
笑いが起こる。
「テスト前に岡本と二人でレンタルショップ回ったんだってー」
「えーっ、もうラブラブじゃん」
女子たちの間から黄色い声が聞こえる。
「しっ。ちょっと、桜に聞こえるでしょ。また、お門違いな嫉妬されたら困るよ。あっち行こ」
彩夏が私のことをチラッと横目で見てから一緒に話していた女子に目配せした。「しっ」と言っている割には明らかに私に聞こえる声量で話している。
私の周りはまた、少し静かになった。
泣くものか。
悔しい思いをぐっと拳で握り潰して、気を逸らせようと作業場の床を凝視する。
私は誰かが使いっぱなしにしているペンキを発見した。
このまま放っておくと筆先が固まってしまって使い物にならなくなる。洗っておこう。
作業場を出て、ペンキ類の洗い場に指定された水道へと向かった。
水道は少し混んでいて、ちょっとした行列が出来ていた。
待ち時間に周りの様子をうかがっていたら、琴乃たちがベンチで仲良くお菓子を食べているのが目に入った。
私がいつも腰掛けているベンチだ。
水道は運動場に近かった。左少し遠くを見れば学校祭とは関係なしに走り回っている運動部員たちがいる。
私は目を左右にせわしなく動かしてからため息をつく。
運動場の主役はこんな遠くからでは見つからなかった。
順番が来たので、筆にこびりついているしつこい汚れを丁寧に落としてすぐに作業場に戻る。
俯いて筆を洗っていた時、少し涙がこぼれた。