「楓、しっかりしろ! おい!」

 素早く駆け付けた彼は手早い判断で楓を仰向けに寝かせ救命処置を施していく。

 まるで映画のワンシーンを見ているようで、現実感は皆無だった。

 すぐに騒ぎを聞きつけた野次馬たちがオレたちを取り囲む。その中には一緒に救護をする者もいた。

 これだけ人が居れば、誰かが救急に連絡している。AEDも取りに行っただろう。後はなにがある。もう、十分ではないのか。

 言い訳ばかりが頭に浮かんでは消えて、オレはまだその場に立ち尽くしたままでいる。

 どうすれば良いんだ。オレに出来ることは。

「仙都! 仙都っ!」

 誰かの呼ぶ声でオレは現実に戻る。

 そこで楓に駆け寄ったのが聡だったことに気づいた。

「ここを押さえてくれ」

「え……?」

 押さえろと言われた箇所、それは楓の右大腿部なのだがそれは正常な状態とは程遠いものだった。

「はやく!」
「わ、わかった」

 言われた通り、楓の大腿部をハンカチで抑えるものの、手が震えてうまく抑えられない。隙間から真っ赤な血が流れ、見る見るうちに自分の手を穢していく。

 激しい雨の合間を縫って生暖かく鉄のような臭いが鼻を刺激する。

 それははっきりと死を連想させた。